Research Abstract |
多値直交符号変調によりスペクトル拡散通信方式(M-ary/SS通信方式)は,通常の直接スペクトル拡散通信方式と比較し誤り率特性の改善が期待され,今後発展が予想される移動体通信や衛星通信などに有効な方式である.しかしM-ary/SS通信方式は,周回衛星を用いた通信における衛星の動きによるドップラ周波数偏移などに起因して発生する搬送波周波数偏差に弱く,その影響によって受信性能が著しく劣化するという問題がある.また,搬送波周波数偏差を伴うM-ary/SS信号の初期同期捕捉は大変困難で,このような信号を捕捉することのできる手法が必要である。以上の背景のもと,申請者は(1)搬送波周波数偏差を伴うM-ary/SS信号の受信特性の改善,(2)搬送波周波数偏差を伴うM-ary/SS信号の初期同期捕捉手法の提案,について検討を行った.その結果以下のような研究成果が得られた. (1)M-ary/SS通信に用いられる多値直交符号の一種であるアダマ-ル符号は,搬送波周波数偏差によって独自の振舞をする.申請者はこの振舞が,アダマ-ル符号のシーケンシと密接な関係にある事を見出した.そして,この振舞を利用した搬送波周波数偏差に強いM-ary/SS通信手法を提案した.周波数偏差値がシンボルレートの0.1〜0.4倍に達するような大きな周波数偏差を伴う信号も,本手法を用いることで良好な受信特性が得られることを明らかにした. (2)搬送波周波数偏差を伴うM-ary/SS信号を受信した場合,多値化に伴う非希望出力が現れる.申請者はこの非希望出力の振舞が周波数偏差値に応じて決定される事を見出した.さらに申請者は,その性質を利用した搬送波周波数偏差存在下でも動作するM-ary/SS信号の初期同期捕捉手法を提案した.提案手法はシンボル同期捕捉,搬送波周波数偏差推定の2つの手法からなり,特に搬送波周波数偏差推定では,シンボルレートの数倍もの大きさの搬送波周波数偏差の値を推定できる事を確認した. 以上の研究成果の幾つかを,国内外の学会・論文等に公表した.これらは独創的な研究として高い評価を受けている.
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