Research Abstract |
本研究は発話に関与する調音器官の運動特性を運動生理学的な実測に基づいて明らかにしようとするものであり,特にその時間構造について検討を行った. 実験では,成人男性一名を被験者として,普通の発話速度で発話した場合と,速い速度で発話した場合とで,調音運動の時間変化パターンについて調べた.検査語は,無意味単語/epepe/および/etete/であり,それぞれに主要な調音部位である下唇および舌先の上下運動を分析の対象とした. 実験ではまず,運動速度がゼロとなる時刻を区切りとして,これらの区間の時間長とその間の位置変位量を求め,発話速度が与える影響を複数回の発話について評価した.その結果,複数回発話による時間長のばらつきと位置変位量のばらつきは,発話速度の変化に対して異なる傾向を示した.すなわち,発話が速くなると,位置変位量よりも時間長の方のばらつきが顕著に減少しており,変位量は多少犠牲にしても,発話のタイミングはより精密にコントロールしようとする傾向が認められた.また,個々の時間区間と全体の時間区間との変動係数を比較した結果,全体の時間区間における変動係数の方が寧ろ小さく,全体としては発話時間を一定に保とうとする傾向も観察された. 本研究ではまた,調音データに縦続一次系のモデルを適用して近似を行い,その有効性を検討しており,調音運動の良好な近似が得られることを確認した.
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