Research Abstract |
アモルファスAl-Cr-Mo合金、Al-Ti-Mg合金をDCマクネトロンスパッター装置を用いて作製し、これらの合金の腐食挙動および表面皮膜を調べた。Al-Cr合金は1M塩酸中で活性溶解するが,Moの添加によって自己不働態化し,耐食性の改善が見られた.また,Moの添加によって,孔食電位は著しく高く,あるいは,Crの過不働態域まで認められず,耐孔食性も著しく改善された.一方Al-Ti合金への少量のMgの添加は,耐孔食性の向上に有効であった。各合金試料の表面を角度分解光電子分光法を用いて分析した結果,これらの合金上に生成した不働態皮膜には,耐食金属元素であるCrあるいはTiの濃縮が見られ,これらが不働態皮膜の安定性を担うことが明らかとなった。これらの濃縮は,Al-CrおよびAl-Ti2元合金の場合には見られない。角度分解X線光電子分光法試料表面の見かけの組成の光電子取り出し角依存性を求め,深さ方向の組成の変化を,金属イオンの泳動と拡散を考慮した高濃度勾配のモデルを用いて検討し,不働態皮膜の構造を推定した.その結果,Al-Cr-Mo合金上の不働態皮膜の表面側にはCrが濃縮し,内部ではAlが濃縮していることがわかった。耐食性を担うCrの泳動の方がAlのそれより速いことが分かったが,この結果から,不働態皮膜の役割は,拡散障壁としてではなく,それ自身の溶解性の低さ,すなわち安定性によって下地合金を保護する事にあると推定された。一方Al-Ti-Mg合金上の不働態皮膜では,外方に向かってTi濃度は高くなるが,皮膜内部でもTi濃度は合金中の濃度よりも高かった。これはAlと比較してTiの泳動が遅いためと考えられた。さらに,角度分解分光測定結果から,皮膜直下の下地合金の構造の推定を行った。その結果,下地合金表面でCr, Tiが濃縮しており,深さ方向に向かって合金組成に近づく濃度勾配があることが分かった。これらの金属元素の濃縮は,Al-Cr-Mo合金の場合で約1nm,Al-Ti-Mg合金で0.3nm程度の比較的浅い範囲で見られることが明らかとなった。
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