Research Abstract |
セイヨウナシ果実では,可食時の肉質の良否が美味しさの決定的要因となる。この肉質は品種による違いはあるものの,いずれの品種においても,よりメルティング質なものが好まれる。本研究は、セイヨウナシ果実における果肉のメルティング質形成過程のメカニズムを明らかにすることを目指した。 まず、'ラ・フランス'果実を1℃で貯蔵し,1,3,5か月後に20℃で追熟を行った。その結果,1か月間貯蔵した果実では,追熟は正常に進行し,肉質もメルティング質となった。他方,5か月間貯蔵した果実では,果実は軟化するものの,肉質はメルティング質にならなかった。3か月間貯蔵した果実の肉質はその中間であった。 次に,'ル・レクチェ'果実をRH95%の高湿度区とRH55%の低湿度区を設け,20℃で追熟を行った。その結果,高湿度区では,追熟28日後に果肉硬度が急激に低下し,その後,果実はすべて可食状態に達し,肉質もメルティング質となった。他方,低湿度区では,果肉硬度は徐々に低下し,追熟28日後には収穫時の約1/2まで低下したが,その後は同じレベルで推移し,可食状態の指標となる1kg以下にはならず,肉質もメルティング質にならなかった。ペクチンメチルエステラーゼ(PME)活性は,低湿度区では低いレベルで推移したのに対して,高湿度区では,果肉硬度が急激に低下する時期に増大した。ポリガラクツロナーゼ(PG)活性については,エンド型,エキソ型ともに,湿度条件にかかわらず,追熟20日後にピークに達し,ピーク時の活性も両湿度区で差が認められなかった。 以上の結果より,セイヨウナシ果実では,果実の軟化と果肉のメルティング質化は異なるメカニズムによって生じていると考えられた。さらに,'ル・レクチェ'果実を用いた実験から,PGは追熟28日後頃までの追熟前半の果肉硬度の低下には関与するが,追熟28日以降の肉質のメルティング質化には関与していないことが示唆された。他方,PMEは肉質がメルティング質化した高湿度区においてのみ活性が増大したことから,果肉のメルティング質形成に深く関わっていると考えられた。
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