Research Abstract |
イカ墨中の抗菌性物質を検索するため,まず様々な種類のイカ墨の抗菌性について比較検討した。その結果,Staphylococcus aureusとS. epidermidisの発育に対して,スルメイカおよびモンゴイカ墨でほぼ同等の発育遅延効果を認めた。しかしヤリイカ墨には発育遅延効果は認められなかった。またこれらスルメイカおよびモンゴイカ墨の抗菌性は,イカ塩辛の熟成初期および中期に優勢となる S. warneri, S. xylosusまたはMicrococcus spp.の発育には影響を示さなかった。 次に,モンゴイカ墨の抗菌特性についてS. epidermidisとS. warneriを指標菌に用い検討した結果,イカ墨濃度3%以上および食塩濃度10%以上の条件下においてその抗菌性が発揮されることが明らかとなった。また作用pHについて検討した結果,イカ塩辛熟成初期と同等のpH6前後では,発育抑制効果が認められたが,pH6.4以上になるとその効果が静菌効果に減弱してしまうことを見出した。しかし,「イカ塩辛黒作り」の熟成期間を通じて優勢となるS. warneriに対してはpH6付近では発育遅延効果は見られず,さらにイカ墨が存在しない場合にはpH7に近づくにつれて発育速度が徐々に低下するのに対して,墨存在下ではいずれのpHにおいても発育速度には変化は見られなかった。 これらのことから,「黒作り」が「赤作り」と比較して,S. warneriが優勢となるより単純な菌相を形成することおよび食中毒菌であるS. aureusが検出されない理由のひとつに,熟成巾におけるpH変動と連動したイカ墨成分のS. warneriに対する増殖促進作用とS. epidermidisに対する増殖抑制作用およびイカ墨成分のS. aureusに対する抗菌作用が上手く発揮されるためと推察した。
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