Research Abstract |
【目的】養鶏産業の種卵業において,孵化過程で増殖異常が認められている「中止卵」は,日本国内で年間約3億5千万個生じ,産業廃棄物として処理されている.これら中止卵の処分方法は,再利用も含め解決すべき深刻な問題となっている.そこで本研究では,中止卵の産業的高度有効利用の可能性と廃棄物問題の解決のための基礎的研究として,孵卵過程中の鶏卵からの新規細胞増殖因子の発見と,その化学的特性の解析を目的とした. 【方法】ブロイラー(東北チャンキ-類)の受精卵を用い,孵卵開始15日目の尿水(EWE)および20日目の残存卵黄(EYE)を採取した.脱脂,凍結乾燥後,水抽出成分をヘパリンアフィニティークロマトグラフィーに供し,ヘパリン結合性成分を得た.細胞増殖因子としての活性は,鶏胚より調製した線維芽細胞(CEF)に対する増殖活性として評価した.活性成分は,SDS-PAGE, Native-PAGEおよびHPLCの化学分析を行った後,N-末端アミノ酸配列を決定した. 【結果】EWEおよびEYEは,共にCEFに対して,対照に比べ,約200から300%の増殖活性を示すことを証明した。ヘパリン結合性成分(EWE-15HおよびEYE-20H)は,共に0.5から1.0MNaCl付近に溶出され,EWEあるいはEYE乾燥試料1g当たり,約36μg得た.EWE-15HおよびEYE-20Hは,CEFに対し細胞増殖活性を示したが,マウス胎児由来線維芽細胞に対しては増殖活性を示さなかったことから,これらの因子は,種特異的に活性を発現する可能性が示唆された.化学分析の結果,EWE-15HおよびEYE-20Hは,それぞれ分子量約18kDおよび33kDの単量体タンパクであることが判明した.EYE-20Hについては,N-末端より16残基のアミノ酸を決定し,ホモロジー検索の結果,本因子の新規性を確認した.さらに,PCR法により鶏胚cDNAライブラリー中に本因子の構造遺伝子の存在が確認できた.今後,本因子の構造遺伝子をクローニングすることにより,本因子の全容が解明でき,中止卵の産業的高度有効利用の可能性が開けるものと確信する.
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