Research Abstract |
【目的と方法】石綿の代替品とし,また,新たな用途を持つ新素材として開発されている人造鉱物繊維(man-made mineral fiber:MMMF)の危険性・安全性に関する一定の評価は得られていない.吸入された繊維の生体内滞留性は繊維の生体影響を予測する上で重要な因子であると考えられる.MMMFの一種であるチタン酸繊維の肺内での滞留性を実験的に評価するために,ラットに対し吸入暴露実験を行った.肺から繊維を回収し,本数と繊維形状の変化に関する検討および繊維の主要成分である残留チタン量の測定から以下の結果を得た. 【結果と考察】 1)肺に吸入された繊維本数は指数関数的に減少し,本数の半減期は2.8ヶ月であった. 2)繊維長さは観察期間とともに長くなった.短い繊維ほどマクロファージに貪食され,肺外へ排出されやすいためであると考えられた. 3)繊維径は観察期間(6ヶ月)を通して変化は認められなかった.また,電子顕微鏡による表面微細構造の観察においても,繊維の体液へ溶解による変化は認めなかった.これは,予備実験で得られたチタン酸繊維の溶解性がセラミックファイバーやガラス繊維に比べて数百倍から数万倍低い,という結果と一致するものであった. 4)肺内残留チタン量の測定から求めた半減期は5.4ヶ月であり,本数の半減期よりも長いことが認められた.排泄されにくい長い繊維ほど1本当たりの体積が大きいためであると考えられた. 【展望】チタン酸繊維の短期吸入曝露実験の結果,難溶性の鉱物繊維の肺からの排泄に関するいくつかの指標が得られた.今後,長期吸入暴露による発癌性,および,じん肺の発生と関連の深いと考えられている肺の繊維化の有無に関して検討を行う予定である.
|