Research Abstract |
近年遺伝子治療研究は後天性疾患にも適応が拡大され,積極的な臨床導入が図られつつある.有効な治療法がなく予後不良の疾患であるARDSや特発性間質性肺炎に対する治療を目的とした外来性の遺伝子導入の試みとして,病変の場である肺胞領域で増殖した再生II型肺胞上皮細胞への安全な選択的遺伝子導入を可能にするためのプラスミドベクターの構築に関して,最初に肺胞上皮細胞を用いたin vitroの系で検討した.LacZ遺伝子の発現プラスミドベクターであるpCMVβに肺胞上皮細胞特異的発現を規定していると考えられるサーファクタント蛋白(SP)-B遺伝子5'上流域のthyroid transcription factor1(TTF-1)の結合部位塩基配列を正逆いずれかの方向に挿入したベクターpCMV-TTF1-β/forおよびpCMV-TTF1-β/revを作製し,Liposomeとの複合体形成後,肺胞上皮癌細胞株A549にtransfectした.pCMVβでtransfectした細胞を対照とし,導入されたβ-galactosidase(β-gal)遺伝子の発現とその増強の程度を,A549にX-galを添加後,位相差顕微鏡による観察ならびに細胞内のβ-gal活性値を基質ONPGを加えた発色反応により測定し,比較検討した.位相差顕微鏡による観察では,pCMVβとpCMV-TTF1-β/forないしpCMV-TTF1-β/revとの間にβ-gal発現細胞の数および程度に明らかな差は認められず,またβ-gal蛋白の活性値に関しても3群間では差を認めなかった.これはA549細胞のTTF-1発現の程度が低いためと考えられ,肺胞上皮細胞特異的発現のためにTTF-1発現ベクターのcotransfectionが必要であることが示唆された.今後は更にin vitroの系を用いてベクターへのTTF-1結合部位認識配列の付加がII型肺胞上皮細胞への特異的遺伝子導入を試みる場合に有用であるか否かを検討し,その後にbleomycin投与マウス肺線維症モデルを用いたin vitroでの遺伝子導入実験を施行し,更には同モデルを用いて治療遺伝子の導入実験も試みる予定である.
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