Research Abstract |
レニン-アンジオテンシン系は生体にとって強力な昇圧システムである.近年,分子遺伝学的解析からアンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子多型のDD型を有する個体が心筋梗塞を高率に発症することが報告された.また,ACE遺伝子のDD型は糖尿病性腎症やラクナ型脳梗塞発症の危険因子であることも報告されている. 今回,我々は慢性期脳梗塞患者46例と健常者46例を対象として末梢白血球より抽出したゲノムDNAからPCR法でACEgeneを増幅しDD,ID,II型に分類した.各型の出現頻度と(1)risk factor(糖尿病,高脂血症,高血圧),(2)頭部CT,MRI,MRA,血管造影所見,(3)赤血球濾過能,標準化全血粘度等の血液レオロジー因子を検討した.その結果,(1)DD型出現頻度は糖尿病,高脂血症を認めない脳梗塞患者で高い傾向にあり,血圧正常患者と三疾患全てを認めない患者では有意に高かった.(2)遺伝子型によりCT・MRI所見の病型に差を認め,主幹部病変(-)群にDD型を高率に認める傾向があった.(3)血液レオロジーでは,DD型で平均赤血球通過時間は有意に延長,相対濾過率は有意に低下し,赤血球濾過能の低下を認めた.また,標準化全血粘度も高い傾向を認めた. 従って,脳梗塞の三大risk factorを除外した場合,ACE遺伝子DD型が脳梗塞の成因に関与する可能性が示唆された.また,遺伝子型により脳梗塞の病型に差を認め,主幹部病変(-)群にDD型が多い傾向にあったことから,脳血管系では主幹部より末梢にACE遺伝子多型と関連する問題が存在する可能性が示唆された.その一因としてDD型での赤血球濾過能低下の関与が考えられた.
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