Research Abstract |
【研究の目的】近年,うつ病の成因としてセロトニン系の異常を示唆する知見が集積されつつあり,その治療にも選択的セロトニン再吸収阻害薬(SSRI)をはじめとするセロトニン系に作用する抗うつ薬が多く用いられてきている.しかし,この数年来,SSRIの単独投与やモノアミンオキシダーゼ阻害薬との併用や三環系抗うつ薬であるクロミプラミンの単独投与にてセロトニン症候群の出現することが報告されている.セロトニン症候群とは,脳内セロトニンニューロンの過活動のため出現する病態と考えられており,錯乱・軽躁などの精神症状,ミオクローヌス,腱反射の亢進,発汗,振戦,発熱などからなる症候群である. 同症候群の出現頻度や惹起しやすい抗うつ薬の種類,その経過,治療の必要性,使用薬物の血中濃度との関連などの検討が必要と考えられる.また,薬物使用以前にセロトニン症候群の出現が予測可能であれば臨床上非常に有益と考える.そこで今回は,従来から使用されている三環系抗うつ薬クロミプラミンをうつ病者の治療に用い,同症候群の出現の有無出現する症状の頻度,出現時期,経過,血中濃度との関連を検討する.さらに,うつ病者のセロトニン系に対する感受性の指標として,薬物投与前の血小板のセロトニン刺激性Ca増加反応を測定し,これにより同症状の出現の予測が可能か否かについて検討するものである. 【対象】(1)DSM-III-Rにて大うつ病エピソードを有する18〜65歳の患者.(2)治療を必要とする身体疾患を有しない.(3)本研究開始以前4週間いかなる抗うつ薬,抗精神病薬の投与も受けていない. 【方法】(1)治療開始3日間は,クロミプラミン75mg/day,その後は150mg/dayを投与する. (2)治療開始前及び治療開始4週間後に採血し,対象患者の血小板のセロトニン刺激性Ca増加反応 を調べる.(3)治療開始前及び治療開始1週間後,2週間後,3週間後,4週間後にハミルトンうつ病評価尺度(17項目)にて臨床評価を行うとともに,Sternbachの診断基準に採用されているセロトニン症候群(錯乱,軽躁,焦躁感,ミオクローヌス,腱反射亢進,発汗亢進,震え,振戦,下痢,失調,発熱)をチェックする.(4)(2)の評価日と同じ日にクロミプラミン及びその代謝産物の血中濃度測定のための採血(最終投与12時間後)を行う.(5)クロミプラミン及び代謝産物の測定は,高速液体クロマトグラフィー法にて行う.(6)セロトニン症候群の出現頻度,出現までの時期,経過,血中濃度との関連,クロミプラミン投与前の血小板のセロトニン刺激性Ca増加反応との関連を検討する. 【結果】クロミプラミン単一投与を行った大うつ病患者の12%にセロトニン症候群の出現をみた.しかし,症状としてはこれまで報告されたような重篤なものは認めなかった.現在血中のクロミプラミン濃度やその代謝産物(デスメチル体と水酸化体)の濃度との関連や血小板Ca濃度増加反応との関連について検討中である.
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