Research Abstract |
本研究では,中枢神経系疾患における自律神経系の関与を明らかにすることを目的とし,中枢神経性運動障害に伴う自律神経反応を末梢循環動態の変化に焦点を当てて検討を行った.実験対象には,コントロール群として若干健常者を,疾患群として脳卒中片麻痺患者を用いた.ここでは上肢末梢の循環機能を血圧,超音波ドップラー法による末梢血流速度および同パルス法による動脈の形態計測,両者より血流量の計測を行い評価した. 【1】健常群:各パラメータの計測データは次のようであった:(1)血圧;収縮期血圧(右112.7±10.2,左113.3±8.5mmHg),拡張期血圧(右64.8±8.0mmHg,左67.5±6.2mmHg),(2)血流速度;上腕動脈部(右4.8±3.3,左側4.6±2.5cm/sec),橈骨動脈部(右3.7±3.2,左3.6±3.2cm/sec),(3)血管径;上腕動脈(右4.0±0.4,左4.0±0.5mm),橈骨動脈(右2.8±0.3,左2.8±0.3mm),(4)血流量;上腕動脈部(右39.7±30.7,左37.3±25.7ml/min),橈骨動脈部(右14.6±14.7,左13.7±13.0ml/min).以上より,健常者の上肢における血圧,上腕・橈骨動脈の血流速度,同血管径および同血流量において左右差がないことが確認できた.上腕動脈部の血流量と同血流速度,血流量と同血管断面積の間の相関はr=0.95,r=0.64でそれぞれ有意であった.同様に橈骨動脈部では血流量と血流速度のみにr=0.98の有意な相関がみられた.よって血流量は血管径より血流速度の影響をより強く受けていることが示された.また,血流量では上腕動脈と橈骨動脈の間にr=0.71で有意な相関が認められた.これらの結果から中枢部での血流量を知ることにより,より末梢部での血流量を評価できることも確認できた. 【2】疾患群:脳卒中患者に対して上腕,橈骨動脈の血流速度を測定し,健側と患側の比較をした.特に橈骨動脈の血流速度の平均は健側4.1±2.3cm/sec,患側2.0±0.9cm/secであり,健側に比べ患側の血流速度の有意な低下を認めた.健常群における検討結果よりこの患側の血流速度の低下は,患側上肢の血流量の低下を反映していると考えられた.また,この対象においては血圧に明かな差は認められなかった(健側の収縮/拡張;120±10/68±14,患側;118.7±11.7/74.7±14.7mmHg).すなわち血管抵抗=血圧/血流量の関係から,脳血管障害患者における患側上肢の末梢血管抵抗の増加が考えられ,自律神経系支配状態に変化がみられることが示唆された.本研究の結果から,今後は寒冷負荷や作業療法実施後の血流の変化等,脳卒中片麻痺における循環動態をより様々な視点から客観的に捉えていくことが重要課題である.
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