Research Abstract |
臍帯の走行条件により局所的に循環障害が生じ得る可能性を検討することを目的に,以下の検討を行った. 臍帯は,胎児の栄養・呼吸をつかさどる胎盤と胎児とをつなぐ唯一の血管であり,文字道理胎児にとって生命線である.その循環障害は,胎児仮死や子宮内死亡につながるが,現在においてもなお,臍帯そのものの循環動態について検討した報告はほとんどみられない.臍帯静脈pulsationは,通常胎児心不全に伴って出現することが知られているが,我々は胎児心に異常を認めない例においても,一時的且つ局所的にpulsationが出現し得ることを報告,さらに臍帯循環障害の天与のmodelともいうべき臍帯過捻転の症例において心障害が認められないにもかかわらず,臍帯全長にわたってpulsationが出現することを明らかにした,今回,この局所的pulsationの出現を指標として,臍帯の局所的循環障害を評価し得るか否かにつき検討を加えた. 臍帯静脈を超音波colour flow mapping法またはpower Doppler法を用いて描出し,臍帯静脈において生じる局所的拍動流(以下pulsation)の出現の有無と臍帯の走行条件との関係を検討した.対象は,臍帯静脈の局所的pulsationを認めた正常妊婦である.超音波pulsed Doppler法により検討した.臍帯の走行条件については,hard copy上において超音波pulsed Doppler法のsampling volumeの中心から各2cmの位置における臍帯静脈の走行方向に接線を引き,2本の接線の交角を臍帯局所における屈曲度とした.これを用い,臍帯の屈曲と循環への影響について検討した.さらに,臍帯が胎児・胎盤や子宮壁などにより圧迫されて走行している場合には,それらについても検討の対象とした. 臍帯屈曲度が60°以上ある場合には,全例で臍帯静脈pulsationが観察された.また,屈曲度が59°以下30°以上の場合には47%,29°以下の場合には22%に認められ,屈曲度が小さくなるにつれて臍帯静脈pulsation出現の頻度が低下することが明らかとなった.さらに屈曲度が59〜30°でpulsation陽性の1例と29°以下の2例では,臍帯が子宮壁や胎児などにより挟圧されて走行しているのが観察された. 超音波pulsed Doppler法による臍帯静脈血流評価により,臍帯の急激な屈曲部位や胎児などによる外部からの圧迫が生じている部位では,局所的なpulsationが出現していることが明らかとなった.今回の検討では,局所的なpulsationが認められていた妊婦を対象としていたため,Whalton′s jellyが少ないなど臍帯が脆弱な例が多くなっていた可能性はあるものの,超音波pulsed Doppler法により,局所的な臍帯循環障害の診断の可能性が示唆された.今後,分娩時の検討を行うことにより,より効率的な胎児monitoring systemの開発につながるものと考えられる.
|