Research Abstract |
ヒトの眼先天異常の成立機序は,現在に至るまで十分には解明されていないが,研究対象となるヒトの先天異常眼を直接検討する機会は少ない.そこで,催奇形因子であるビタミンA活性型誘導体の全トランス型レチノイン酸を妊娠マウスに投与することで,胎仔に種々の眼先天異常を高率に成立させて,これらを組織学的・組織化学的に検討した.さらに,その結果をヒトの眼先天異常の臨床像と比較した. 未経産で発情期の雌と健康な雄を一晩同一飼育箱に入れ,翌朝,膣栓のみられた雌を妊娠0日とした.とうもろこし油50mlに全トランス型レチノイン酸100mgを溶解し,妊娠7日に12.5mg/kgを腹腔内に注射した.妊娠18日に母獣を屠殺して胎仔を取り出し実体顕微鏡で外形観察,Bouin液に固定した後,パラフィンに包埋し,前額断の眼部連続切片を作製した.ヘマトキシリン・エオジン染色を行った各切片を光学顕微鏡で観察した.各眼先天異常に応じた酵素消化法を併用した増感高鉄ジアミン染色を行い,各眼先天異常におけるグリコサミノグリカン分子種の異常を観察した.その結果から,口唇・口蓋裂,外脳症,低位耳介,小顎症などの外表奇形および胎生裂閉鎖不全,硝子体形成異常,無水晶体眼,前房隅角形成異常,水晶体胞分離不全などの眼先天異常は,神経堤細胞の遊走異常により成立することを解明した. さらに,同じく神経堤細胞の遊走異常により成立するヒト角膜の先天異常である後部胎生環に合併する全身奇形には,やはり神経堤細胞の発生異常が多いことを臨床的に明らかにした. 本研究から,レチノイン酸投与により,マウス胎仔にさまざまな眼先天異常を高率に成立させうることが判明したため,今後,マウスで眼先天異常の成立臨界期を解明し,ヒト眼先天異常を予防する研究を行う予定である.
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