Research Abstract |
これまでヒト顎関節周囲静脈系に関する詳細な報告はみられず,さらに循環障害と顎関節症の関係についても報告が見られない。これまで私は,ヒト翼突筋静脈叢は単なる密な静脈叢ではなく静脈叢と静脈洞を合わせ持った2層構造であり,静脈洞を呈した部の一部が組織学的に静脈瘤様を呈することと,動物実験的に,循環不全による顎関節滑膜下毛細血管の減少を認めたことをを報告してきた。 そこで今回は,ラットを用いて,片側の外頚静脈結紮後の頭・頚部循環障害による顎関節周囲静脈系を中心とした翼突筋静脈叢の形態学的変化について肉眼的・組織学的観察を行い,循環障害による顎関節症の一因を検討した。 1.材料:本学解剖学研究室保存の遺体20体,40側とWister系ラットを用いて行った。 2.方法:ラットの外頸静脈を,麻酔下で頸部を正中切開し胸鎖乳突筋中央部の位置で絹糸にて片側のみ結紮を行い,7日,10日,14日,21日,28日経過後,麻酔下で上行大動脈から生理食塩水にて灌流脱血を行った。この後,一部は組織切片用とし顎関節を含めて側頭部を切断しPlank Rychlo液にて脱灰を行い。脱灰終了後は,通法に従いパラフィン切片を作成しAzan染色,Hematoxylin-Eosin染色をおこなった。さらに一部は血管用注入樹脂を注入し顎関節周囲静脈系の血管鋳型標本を作製した。 3.結果 1.外頸静脈結紮後,7日,10日,14日,21日,28日経過のラット顎関節周囲静脈叢には,血管系の走行異常・消失などの著名な変化は認められなかった。 2.ラット翼突筋静脈叢に動静脈吻合が認められた。 これらの事から,ラット顎関節周囲静脈系には循環障害が発生したとき外頚静脈を経由しない循環路が存在するのではないかという事と,さらにラット翼突筋静脈叢を中心とした顎関節周囲静脈系に動静脈吻合が認められたことは,顎関節周囲静脈系には特異的な静脈循環路が存在していると思われる。 今後,翼突筋静脈叢と顎関節の形態および静脈系の特異的な循環路解明を目的に研究していくつもりである。 本研究の概要は,第102回日本解剖学会総会にて報告を行う。
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