Research Abstract |
急速な高齢化社会を迎えている我が国において歯科医療もまたその対応が急務とされている.しかし,補綴治療の場合,介護を要する高齢者と快適な老後,いわゆるQOLの向上を目指すことのできる健康な高齢者とでは治療条件が全く異なるため,両者を区別してその対応を考える必要がある.とくに老人病院中の介護を要する高齢者の口腔状態と歯科治療の実態に関する調査は少なく,また,それらは残存歯数等の簡単な調査にとどまっている.その意味においては,介護を要する高齢者の口腔状態の現状と,医療全体からみた場合,我々歯科医が行うべき医療は何かを明確にする必要がある. 本研究は,上記の目的のための予備調査として,徳島県下の2つの老人病院とその附属の老人健康施設の入所入院患者(以下,これらをあわせて老人病院入院患者と呼ぶ).および徳島大学歯学部附属病院補綴科を受診した患者のうち全部床義歯装着者を対象にデンチャープラークの細菌構成の調査を行った.また,最近,院内感染で問題となっているメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のデンチャープラークにおける出現頻度についても調査した. その結果,老人病院入院患者の全部床義歯から採取したデンチャープラークは,大学病院補綴科来院の全部床義歯装着者からのものと比べて 1)総細菌数,レンサ球菌,カンジダ数,ブドウ球菌ともに多く,また,総細菌数に占めるレンサ球菌,カンジタ数,ブドウ球菌の割合も大きかった. 2)総細菌数とレンサ球菌数,カンジタ数とブドウ球菌数との間に正の相関が認められた. 3)MRSAの出現頻度が高い傾向にあった. 4)心疾患や脳血管障害をもつ患者ほど総細菌数,レンサ球菌数の多い傾向が認められた. 今後,このような高齢者の口腔ケアについて,より徹底した指導の必要性が示唆された.
|