Research Abstract |
1.目的 発音時の舌と口蓋のみならず歯列との接触様式の適否は,多くの語音に重要な意味がある.そのため,舌と歯列・口蓋との接触形態を調べる方法として主として静的パラトグラム法を行い,義歯設計の参考としても利用してきた.しかし,調音活動は本来,流動的なものであり,動的な経過の分析が望ましい.本研究では,音声分析パターン(3D-Sonagraph)と連動するダイナミックパラトグラフィーにより文章発音中の舌の調音運動パターンと子音産生のタイミングを比較検討した. 2.方法 (1)被験者:個性正常咬合を有した有歯顎者6名(男4名,女2名).(2)被検音:「桜の花が咲きました」(3)記録解析方法:口蓋および歯列の基底結節および舌側咬頭に計96個の電極を配列した口蓋板を被験者の口腔内に装着し,音声と同時にPalatometer(Model 6300:KAY社)により,舌接触パターンを記録した.このシステムでは,即時に得られた音声のspectrogram(ソナグラム)と舌接触パターンの画面がリンクしており,カ-ソル位置に対応する経時的な舌接触位置の変化を観察できる.さらに,データをCSL(Computerized Speech lab, Model 4300B:KAY社)に転送し,各子音について“構え",音発生,舌の最大接触,音終了点を判別する.そして,各時点で舌接触する電極の位置を記録し,個々の電極について接触の頻度(%)を集計した. 3.結果と考察 文章中の[s],「k],[r],[n],[∫],[t]のspectrogram上での音発生時点を原点とし,“構え",最大接触,子音終了の時間的関係を示した.摩擦音[s][∫],通鼻音[n)では,“構え"に次いで音発生し,その後に最大接触となる.これに対して破裂音[k][t]では“構え"に続いて最大接触となった後に音発生となる.弾音[r]では,最大接触と同時に音発生しており,調音様式の違いが明確に表された. 以上のように本システムでは,パラトグラム,音声波形,ソナグラムが完全に同期し,相互の時間的関係を精密に観察でき,顎補綴患者の機能評価に応用できることが示唆された.
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