Research Abstract |
一酸化窒素(NO)の脳脊髄液(CSF)循環に及ぼす影響を調べる目的で,脳室-大槽灌流法(VCP)を用いてCSF産生(Vf)・吸収量(Va)を定量評価した。実験には成猫6匹を用い,笑気50%・セボフルラン0.5%による全身麻酔後,大腿動静脈にカテーテルを挿入した.脳定位装置に固定後,0.5%ブルーデキストラン加リンゲル液によるVCPを開始した.VCPが安定した後,NO合成酵素(NOS)阻害剤であるL-ニトロアルギニンメチルエステル(L-NAME)を30mg/kg静脈内に投与し,1mg/kg/minで持続投与を行った.Vf,Va,平均動脈圧(MAP),局所脳血流量(r-CBF)の各パラメータをL-NAME投与前後ならびに投与終了後の各時点で観察し,その関連性について検討した. その結果,L-NAMEの投与によりMAPは有意に上昇し,中止にて投与前値に低下した.Vf,Va,r-CBFの各パラメータはL-NAMEの投与による変化を認めなかった.以上の所見から,CSF循環とr-CBFはL-NAMEによるMAP上昇と関連せず,全身的なNOS阻害のCSF循環に対する影響はみられないことが示唆された. 従来よりCSFの産生は,脈絡叢がその主要部位であり,産生機序には浸透圧が影響することが認められている.脈絡叢の血流変化はその強い恒常性によりCSF産生にほとんど影響しないとされているが,以前からL-NAMEによる脈絡叢の血流増加は報告されており,今回の結果もそれを裏付けるものとなった.しかし,NOは脳内において非常に複雑な役割を有しており,今後さらに詳細な検討を重ねる必要性がうかがわれた.
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