Research Abstract |
短鎖型脱水素酵素ファミリーに属するマウス肺カルボニル還元酵素の,NADP(H)特異性の発現に関与する3ヶ所のアミノ酸残基(Lys17,Arg39およびThr38)を置換し,速度論的および熱力学的な解析を行った. まず,Lys17をHis(K17H),Arg(K17R)およびSer(K17S)に,Arg39をAla(R39A)に置換した.両残基はNADPHの2'ーリン酸基と静電結合することが結晶構造から示されている.K17Rは速度論的パラメーターに顕著な変化は示されなかったが,その他の変異酵素ではNADP^+に対するKm値が7倍以上に上昇した.同様の結果は,補酵素の解離定数についても得られ,本酵素ではLys17およびArg39に相当する位置の正電荷がNADP(H)との結合に重要な因子であることが明らかになった.さらに熱力学的解析からは,Lys17がより強くNADP(H)との結合に寄与していることが明らかになった.しかし,NAD^+に対する親和性はいずれの変異酵素でも大きな変化は見られなかった. 次いで,NADPHの2'ーリン酸基と水素結合を形成するThr38について解析を行った.Thr38をAspに置換した酵素(T38D)は,Kca/Km値でNAD^+/NADP^+の値を野生型酵素に比べ約5×10^4倍に上昇させており,一残基の置換で補酵素特異性の変換が達成されたことが明らかになった.熱力学的解析からも特異性変換を支持する結果が得られた.この劇的な変換が生じた原因として1)野生型では水素結合でNADP(H)との親和性を高めていた残基(Thr38)が,Aspに置換されたことで静電的な反発が生じ,逆にNAD(H)の2'-水酸基と水素結合を形成することによりNAD(H)との親和性を増したこと,2)Asp側鎖の導入により,NADP(H)結合部位への立体障害が生じたこと,の2点が考えられた.一残基置換による補酵素特異性の変換はこれまでに報告されていなかった.
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