Research Abstract |
結核の病態は,近年複雑化,多様化している。そのため,適切な病態の診断には迅速な菌の検出とともに治療反応性や伝播経路など質的情報の重要性が増している。現在質的情報としては,薬剤耐性試験が唯一の方法であるが,長期間を要し培養不可能な菌では行えないなど困難な点が多い。IS6110遺伝子の反復配列は,結核菌遺伝子内に挿入される部位と反復回数が結核菌菌株ごとにより異なるため,その反復配列パターンの解析は,治療反応性や病原性と密接な関係を持つ菌株のマーカーとなりうる。そこで,我々は新たな方法として菌から抽出したDNAをPCR法を用いて増幅しIS6110遺伝子のフィンガープリント検出を試みた。対象は,結核菌特異的IS6110遺伝子が複数検体から検出された9例(18検体)で,内訳は検索した2検体とも培養陽性4例,培養陽性1検体・陰性1検体1例,2検体ともに陰性4例で,対照として結核菌標準菌株,結核菌標準菌株から作製したスフェロプラスト型(細胞壁が欠損しているため抗結核剤治療に抵抗性をもち,宿主の免疫反応から逃れ乾酪壊死巣内に長期間滞まっているが培養検出不可能)結核菌を用いた。各種検体から抽出したDNAについて,フィンガープリント解析を行なった。フィンガープリントを検出するプライマーは,IS6110遺伝子の反復配列の3'末端,5'末端よりに,外側に伸長反応するように設定した。フィンガープリントパターンは,得られたPCR産物をアクリルアミドゲル電気泳動で解析した。フィンガープリントの解析は,症例ごとに,また同一症例の異なる検体ごとに行ないパターンを比較したところ,9例全て同一症例異検体で同一パターンが検出された。また,パターン症例ごとに異なった。さらに,培養陽性1検体・陰性1検体の1例,培養可能な結核菌標準菌株と培養不可能なスフェロプラスト型結核菌ともに同じパターンが検出された。キャピラリー電気泳動とアクリルアミドゲル電気泳動との結果を比較し,同様の結果が得られた。結核菌IS6110遺伝子の反復配列のフィンガープリントパターン解析は,直接検体から検出可能であるため,長期の培養を待たずに迅速にかつ培養陰性の症例においても治療反応性など性状を異にする菌株の同定や疫学的調査に利用できるものと考えられる。
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