Research Abstract |
1.慢性気道疾患患者232例を対象に,採取した喀痰の外観と膿性度から粘液性痰と膿性痰に分類し,患者の自覚症状に関する面接調査および分析を行った。 (a)痰の形状と喀出困難の程度:喀出時の痰の形状は,粘液性痰群では塊状が46%,塊状以外が54%であったが,膿性痰群では塊状が95%,塊状以外が5%で,膿性痰群では痰が塊状でこれが比較的簡単に喀出できる症例が多いのに対し,粘液性痰群では痰の形状もいろいろで,痰の喀出困難を自覚する症例も膿性痰群より多いことがわかった。 (b)気道閉塞感と呼吸困難:粘液性痰群では気道閉塞感があると自覚している人が72%で,膿性痰群では53%で,粘液性痰群で気道閉塞感を自覚する人が多かった。また呼吸困難が強いほど気道閉塞感が高度であった。 (c)せきの程度:痰の喀出時に強いせきをする症例が,粘液性痰群では38%,膿性痰群では18%となっており,粘液性痰群で強いせきを自覚していた。 (d)考察と結論:粘液性痰を喀出している患者と,膿性痰を喀出している患者では,異なる去痰対策が必要であることが示唆された。粘液性痰群では,気道からの粘液の分泌が亢進し,かつその粘液の粘性が高くなりすぎているために痰の喀出が困難で,痰を喀出するために強いせきを必要とし,また気道内で痰が線毛により移送されにくく,気道閉塞感を自覚する比率が高くなると考えられた。痰の喀出時に伴う種々の自覚症状は,粘液性痰群で膿性痰群より多彩,かつ高度であり,粘液性痰群では水分摂取を含めた食事療法,排痰法や呼吸法の指導などが特に必要であると考えられる。一方,膿性痰群では痰の喀出に伴う自覚症状自体は粘液性痰群に比較し軽度であった。膿性痰群では,痰自体の粘性や弾性に関与している気道粘液糖タンパクが,多核白血球の放出するプロテアーゼにより分解されるために,痰全体の粘性や弾性が低下しているためと考えられる。しかし,膿性痰群では,慢性的に炎症や感染が持続しているため,組織破壊がおこり易く,病期が進展し易く,また体力の消耗が高度である。このため,去痰対策に加えて,気道感染の治療と栄養状態を改善する治療が必要と考えられる。 2.気道腔におけるフィブリン塊形成の問題:粘液性痰を喀出している患者でもフィブリン塊が形成されると痰の喀出がより困難になる可能性が考えられたので,慢性気管支炎(CB)と気管支喘息(BA)患者の粘液性痰中のフィブリノーゲンを測定したところ,CBよりBAで高値であった。今後,フィブリノーゲンからフィブリンへの転換がBAで亢進しているか否かを解明する必要があると考えている。
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