Research Abstract |
本研究では,耕作放棄地の地域的展開について,(1)農村地域分化と年次変化,(2)土地管理への村落社会や自治体等の機能との関連性に焦点を絞り,1970〜90年の農業集落カードを主なデータソースとした低成長期の長崎県半島部の分析によって実証的に明らかにした。その結果は,以下の諸点に要約される。(1)主成分分析とクラスター分析によって,対象地域が,農業生産性と農業経営形態の各次元で説明される,より複雑な地域構造から比較的単純なものへ変化したことを指摘できる。この間、非生産的地区の脱農業化と農業労働力の高齢化,野菜地区の生産性高低への二極分化,果樹・茶地区の生産強化が顕著で,1990年には,稲作地区と非生産的畑作地区が全域(後者は特に近郊地域)に分布する一方で,長崎・西彼=生産的果樹,北松=生産的茶・畜産,島原半島=生産的野菜・畜産という地域的モザイクが強まる傾向にある。(2)放棄地率の平均値は急増しているが,逆に標準偏差は横ばい傾向にある。地域的には,非生産的性格を持った畑作地域で放棄地率が高く,それら(特に長崎・佐世保周辺,島原半島西部・東彼)では,それと農業条件(特に労働力の高齢化)及び農業経営の専門性(特に脱専門化・稲作拡大)が負の相関関係にある。(3)村落社会の土地管理機能の弱体化とには,ある程度の関連性が指摘できるが,その因果関係は明かではなく,むしろ他の要因による複合的な作用が暗示される。(4)実態調査によれば,出作・入作等の農地流動と機械化及び区画整理・基盤整備が,それらの鍵として指摘できる。前者では,村落社会の調整機能には限界があり,現在では個人的ルートが主要な回路となっているが,特に広域的なそれに県主導の調整が重要な役割を演じつつある。後者は労働力の高齢化に関わって重要だが,特に果樹・茶地域で自治体等の補助金と村落の空間的連続性が重大な意味を持つ。これらの詳細については,今後の課題である。
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