Research Abstract |
一般に,神経回路に非線形なマッピングを学習させるためには,入力と,それに対する望ましい出力とのペアを用意して提示する必要がある.しかし現実の環境下では,望ましい出力そのものが不明であることが多いため,従来手法では学習が困難である.これを解決する方法として,複数のセンサー情報の対応を取るように学習する手法を提案した.ただし各センサー情報にはノイズが載っており,それ自体が曖昧であるため,このノイズをいかにして低減しながら学習するかが課題となる. 提案したシステムは,センサーとそれにつながる神経回路のセットを複数セット組み合わせた構成になっている.各神経回路の出力は統合部に送られる.ここでは全ての神経回路の出力の重み付き平均が計算され,それがシステムの最終出力となる.各神経回路は,自分の出力が統合部の出力に近付くように学習する.学習の初期段階では,各神経回路の出力はノイズによる影響を受けるが,統合部の出力は各神経回路の出力の重み付き平均であるため,ノイズによる影響は各神経回路のそれよりも低減されている.したがって学習が進むにつれて各神経回路はノイズに影響されない出力を出すようになって行く.さらに,観測対象物のカテゴリーに関する情報が統合部に反映されるようにするために,各神経回路にバックワード経路を付加し,それらとともに学習させるようにした.バックワード経路を付加されたネットワークは砂時計型の恒等写像ネットワークとなり,その中間細胞の出力が統合部に送られることと等価になる.つまりセンサー入力のバリエーションが,統合部の出力にある程度反映されるため,統合部の出力はノイズによる影響を受けず,且つ観測対象物のカテゴリーを表現するようになっていくのである.学習終了後,このシステムはバックワード経路の出力とセンサー入力を比較することによって各センサー入力の信頼性を評価し,センサーの優先度を制御しながら認識を行なう. 計算機シミュレーションでは,まず各母音を発音している口の形状と音声信号とのペアを多数セットシステムに提示して統合部にいかなるパターンが現れるかを実験した.すると,各母音に対応した出力パターンが得られ,このシステムが母音を識別するように学習できることが示された.比較のために,音声信号のみ,あるいは口の形状のみで学習させると,正確には母音の区別ができなかった. 次にこのシステムを自律ロボットに組み込んで,あらゆる悪条件下でロボットが正確な環境把握ができるようにすることを目指した.実験では,視覚センサーと聴覚センサーを持つロボットを用意して,ランダムに動き回るターゲットを補足し,捕獲するように強化学習法で学習させた.強化学習システムには,先のシステムの出力が入力される.その結果,この自律ロボットは一部のセンサーが使用不能状態に陥るような悪条件下であっても確実にターゲットを捕獲できることが示された.
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