Research Abstract |
近年,アメリカを中心に,かんばん方式を含む生産指示方式を組み入れた有限バッファをもつ生産ラインの研究が盛んになされている.たとえば,直列型生産ラインではPACシステム,(a,b,k)モデルなどがある.これらは,いずれも各種ブロッキングを含めた形でシステムを数理的に定式化し,サイクルタイム,仕掛品の加工待ち時間などを理論的に解析し,パラメータやバッファ容量を変化させたときのシステムの性能比較を行っている.しかしながら,これらの研究において,一つの工程から複数の後工程に仕掛品が送られる様な例はほとんど見受けられない.本研究では,現実にみられる,複数の工程が一つの前工程からそれぞれ部品を引き取るといった,開放,多段型生産システムのモデルを構築した.次に,このモデルを,一般化セミマルコフ過程とよばれる離散事象システムの確率過程として理論的に定式化した.さらに,オペレーションズ・リサーチの分野における解析手法を用いて,いくつかの生産指示方式について,スループットなどの性能を評価した.まず,このモデルにおいて投入された仕掛品が必ず製品となるための十分条件を理論的に導いた.この条件は,ブロッキングなどによるデッドロックが起きないことを示している.次に,このシステムの確率的凸性を示した.これは,各工程における部品のばらつきが小さいほど,スループットが大きくなることを示している.さらに,複数の異なるシステムの可逆性や等価性を示した.このことは,一見異なる部品の流れを持つ,あるいは異なる生産指示方式を持つ複数のシステム間で,生産スループットが等しくなることを示している.本研究の結果は,直列型生産ラインをはじめ,各種の有限バッファシステムに適用可能な結果である.また,本研究で示されたモデルは,異なる生産方式や,物,人の流れの異なるシステム間の性能比較を行うための基礎となるものであり,重要である.
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