Research Abstract |
小脳顆粒細胞は、中枢神経系におけるニューロン死の分子メカニズムを蛋白質ならびに遺伝子レベルで解析する上で極めて有効な実験材料である。昨年度より我々はこの系を用い、(1)ニューロトロフィンおよびそのレセプターを介した生存維持機構の細胞内シグナル伝達系ならびに(2)酸素ラジカルと脱分極刺激除去による中枢ニューロン死のメカニズムについて解析を行ってきた。本年度はまず第一に、幼若な小脳顆粒細胞に対する脳由来神経栄養因子(BDNF)およびNT-3による生存維持効果について、それぞれのレセプターであるTrkBおよびTrkCを介した細胞内シグナル伝達機構について解析を行った。その結果、それぞれのニューロトロフィンによる生存維持効果の差は、レセプターの発現量およびその下流に存在するリン酸化蛋白質の活性化の違いによることを明らかにした(Nonomura,et al.,Dev.Brain Res.,1996)。第二に、脱分極刺激除去による小脳顆粒細胞のアポトーシスでは、細胞周期関連遺伝子の一つであるサイクリンAの特異的な発現低下を伴う(Oka,et al.,Dev.Brain Res.,1996)と同時に、BDNFによる生存維持効果はP13キナーゼの活性化を介したものであることを示した(Shimoke,et al.,Dev.Brain Res.,reviced)。第三に、様々な酸素ストレスおよびDNA障害による中枢ニューロン死メカニズムの解析のため、癌抑制遺伝子p53遺伝子欠損マウス由来の小脳ニューロンを用い、酸素ラジカルによるニューロン死がグルタミン酸毒性やDNA鎖切断を介してアポトーシスを誘導することを明らかにした(Enokido,et al.,Neurosci.Lett.,1996;Enokido,et al.,Eur.J.Neurosci.,1996;Enokido,et al.,J.Neurochem.,reviced;Satoh,et al.,投稿準備中)。
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