Research Abstract |
本研究では,生体リズムゆらぎの起源と機能的意義を解明していくことを目的として,自律分散系の最も単純化した実験的モデルと考えられる単離心筋細胞の培養系を用いて,心筋細胞拍動の画像化により非侵襲的に拍動リズムの静的及び動的特性の解析を行った. 生後1〜2日目の新生ラットの心室を,タンパク質分解酵素により心筋細胞へと単離した.心筋細胞はCO_2インキュベータ内で,温度37°C,CO_25%,room air 95%の条件下で約2週間培養した.培養2日目より,倒立顕微鏡下でCCDカメラにより心筋細胞の拍動の様子を録画した.録画した画像から画像処理により心筋細胞の拍動に伴う画素濃度の変化を求め,拍動の様子を評価した.この相関係数時系列に基づき,拍動周期の変動より拍動リズムゆらぎの静的特性を,またアトラクタの再構成,アトラクタ次元を求めることにより拍動のダイナミクスを解析した. 培養心筋細胞は培養日数が増加するにつれて他の心筋細胞との接着面が増加した.拍動リズムの静的なゆらぎを反映する統計量である拍動周期の変動係数は,培養日数が増加するにつれて減少する傾向が認められた.また,相関係数の振幅とその時間微分により構成される相空間に再構成された心筋細胞拍動ダイナミクスのアトラクタは培養日数の早い時期からリミットサイクルを描き,その軌道のとりうる範囲が培養日数の増加に伴い減少する傾向が認められた.また,相関積分法により求めたアトラクタの次元は培養日数が増加するに従って減少し,その値は1に近づく傾向を示した. 以上の結果は,培養心筋細胞系においては,培養日数が増加するに従ってその拍動リズムは安定する傾向があることを示唆している.この現象は,培養日数の経過に伴って心筋細胞間の機械的及び電気的な結合が強化されることにより引き起こされると推定される.
|