Research Abstract |
歯科治療に関連して生じる合併症のうちでもっとも頻度の高いものの1つである疼痛性ショックの発生機序を検討するために本研究を行った. 実験には日本白色種家兎およびウィスター系ラットを用いた.ウレタンおよびα-クロラロースを腹腔内に投与後,気管切開を行い,筋弛緩剤にて不動化し,人工呼吸下で実験を行った.三叉神経電気刺激はオトガイ神経にて行い,頻度1,5,10,50Hz,強度0.5,5,20mA,の計12種類の刺激を用い,持続時間0.5mSの矩形波で10秒間刺激した.その際の,頸部迷走神経と交感神経の活動電位の変化を検討するとともに,観血的動脈圧並びに心拍数も測定した. 家兎では,刺激により血圧の下降をみる個体が多く,特に,刺激頻度5Hz,刺激強度5mAまたは20mAにおいて顕著であった.心拍数は10%未満の減少をみたものが多かった.なお,両側の頸部迷走神経を切断した家兎でも,同様の血圧の変動が認められた.一方,ラットでは,血圧の上昇をみた個体が多かった. 家兎における神経活動の変化をみると,交感神経活動は刺激開始直後に有意な減少を示したが,迷走神経活動の変動は認めなかった.ラットでも血圧の変動をみた個体では交感神経の変動が認められた. 従来,疼痛性ショックの発生原因としては三叉・迷走神経の関与が強調されてきたが,今回の結果から,疼痛性ショックを検討する場合には,交感神経の変動にも注目すべきであることが示唆された. 今回の条件での血圧下降は,遷延した個体でもその長さは10数秒であり,疼痛性ショックの発生には至らなかった.疼痛性ショック発生に至る条件については,今後さらに検討する必要がある.
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