Research Abstract |
平成7年度に製作・組立を完了した1024個の演算要素から構成され,最高速度307GFLOPSの超並列計算機CP-PACSを調整・性能評価を行った後,物理学,特に格子量子色力学の本格的な計算を開始した。さらに,そこで得られた知見及びバグ対策経験を基に,平成8年8月から,演算要素を2048個,最高性能を614GFLOPSに倍増する作業を開始し,9月に組み立て設置が完了した。この超並列計算機を用いてリンパック・ベンチマークの性能測定を行い,実効速度として,368.2GFLOPSを達成した。この測定結果は米国ピッツバーグで開催された国際会議ス-パコンピューティング96で報告されたトップ500の第1位に登録された。10月よりこの超並列計算機を用いて物理学研究のための稼働を開始した。格子量子色力学のクエンチ近似を呼ばれる近似の中での精密計算を実行した。さらに,近似なしの計算の予備計算を実行した。これらの結果は,平成9年3月中旬に計算物理学研究センターで開催された国際会議で報告され,当該分野での従来の結果を飛躍的に向上させた結果として非常な注目を浴びた。宇宙物理学,物性物理学の分野でも,プログラム開発,性能測定は終了し,予備的な結果をすでに得ており,得られた結果はこれからの本格的な計算に向け有望である。以下に詳細を述べる。 超並列計算機CP-PACSの調整・性能向上として以下の項目を実行した。 1)演算プロセッサ 電圧・周波数マージンの不足チップの交換 2)ノード間ネットワーク 一斉データ転送時のDC電源電圧の変動対策 3)NIA(ネットワーク・インターフェース・アダプター) 電圧・周波数マージンの不足チップの交換 4)分散ディスク 入出力性能向上のためコトールウエアの改良 5)オペレーティング・システム OSのメモリ常駐使用量の削減 フラグメンテーション対策 6)コンパイラー 擬似ベクトル化適用範囲拡大・性能向上 7)通信関数 既存通信関数の性能評価・性能向上 新規通信関数(ソフトウエア・ブロードキャスト関数・RDMAチェイン関数)の実装 計算機の環境条件として,空調機・電源設備に関して,床下空気流の吹き出し・室内温湿度の調整,空調機負荷分散を実施,負荷合計約420KVAを確認した。 システム障害発生時,及び停電・火災等の障害発生時の対応体制などの技術的問題を検討,対応策を定めた。 上記の諸問題の解決を図るのと並行して,超並列計算機CP-PACSの種々の性能測定を行い,最終的に設計とおりの性能が発揮されることを確認した。 1)演算プロセッサ 基本ベクトル演算の大規模計算に対して,擬似ベクトル機構によって高性能が実測された。特に,キャッシュモードと比較し,ベクトル長が長い時に,決定的に性能差が出ることを測定した。 2)ネットワーク性能 ピーク性能が1秒間に300MBYTESであり,立ち上がりのハードウエア・ソフトウエアのオーバーヘッドは約3マイクロセカンドという高性能を実測した。 これらの基本的性能とともに,前述のとおり,性能測定の世界的な標準となっているリンパック・ベンチマークの実行性能として,368.2GFLOPSを達成した。さらに,格子量子色力学のプログラムを開発し,その性能を測定した。核となる部分はアセンブラコードを用いてプログラムを書き,1プロセッサあたり,191MFLOPSという高性能を実現した。 1024個の演算要素から構成されるCP-PACSが完成した時から,格子量子色力学の本格計算を開始した。まず,クエンチ近似と呼ばれる近似のもとで,今まで世界中で行われたことのない高精度の計算を行い,ハドロンと総称される素粒子の質量・崩壊定数を導出した。さらに,近似を含まないフルQCDにおいて,ハミルトニアンに相当する作用を型を改善したものを用いて計算を開始し,ハドロン質量・クォーク間ポテンシャルに関して非常に有望な結果を得た。前述のとおり,これらの結果は平成9年3月に開催された国際研究集会において報告された。また,宇宙物理学においては,輻射効果を取り入れた銀河形成・星形成のプログラムが完成し,物性物理学においても第1原理計算のテストランがすでに終わり,本格的な計算にとりかかる段階である。
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