Research Abstract |
本研究の目的は,アメリカ先住民を含むアジアの諸集団のミトコンドリアDNAおよび核DNAの変異を解析し,それらと日本人との関係を考察し,日本人の成立に関する新たな知見を得ることである.ミトコンドリアDNAの変異として,9塩基対欠失の変異と制限酵素HincIIによるRFLPsを解析し,核DNAの変異としてはβグロビン遺伝子群のハプロタイプ解析を行なっている. 本年度はmtDNAの方は,モンゴルの2つの集団(ハルハ族とブリアート族)とフィリピンのフィリピンの8集団(マニラ市,サンチャゴ市,ママヌア,スリガオノン,セブアノン,イバロイ,イフガオ,カンカナヤ)について調べた.9塩基対欠失の変異は,モンゴルの2集団では,10%未満と少なかったが,9塩基の挿入の変異が少数の個体にみられた.フィリピンの集団では,20〜50%と高い値を示した.HincIIのRFLPsは,モンゴルの集団でのみ調べたが,アメリカ先住民にも多い,モルフ6が高頻度でみられた. アジア系集団とアメリカ先住民のβグロビン遺伝子群のハプロタイプ解析を行ない,さらに文献による他の集団のデータも統合して,集団間の関係をUPGMAによる類縁図で示したところ,アジア系の集団は,アフリカ系の集団ともヨーロッパ系の集団とも遺伝的にかなり距離があるが,メラネシア,ポリネシア集団とは近い関係にあった.日本人が韓国人と最も近い関係を持っていることを示す結果は他のDNAマーカーを用いた研究結果と同様であった.また,狭い範囲にしぼった(サブハプロタイプ)分析結果では,コロンビア原住民が南太平洋集団と遺伝的に近い関係を示し,アジア人とも遺伝的距離が比較的近い結果を示している.しかしながらハプロタイプの結果は,コロンビア原住民の集団が地中海集団と最も近い遺伝的関係を示している.
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