Research Abstract |
生命の誕生に必要な遺伝系が確立されるには,前生命的な環境で十分な長さのポリマー分子が生成される必要がある.しかし,ポリマー合成反応の平衡定数は短分子側に偏っているため,平衡状態ではポリマーの濃度は長さの増加とともに指数関数的に減少する.よって非平衡状態において高分子ポリマーが選択的に高濃度に合成される相互触媒反応ネットワークが存在するかどうかが鍵となる.そこで系内の総モノマー数が一定という条件のもと,系外からの数種のモノマーが供給され,触媒・非触媒の合成分解反応により種種のポリマーがつくられ,各合成ポリマーが濃度に応じて流出するという数理モデルを構築した.触媒反応は,全ての可能な反応のうち一定の触媒確率で実現され,非触媒反応に比べ,触媒効率と触媒濃度の積のファクターだけ正逆の反応速度が増加するとした.一定のしきい値を越える濃度のポリマー間で触媒反応を実現させ定常状態を計算し,その結果新たにしきい値を越えるものを求める.これを繰り返し,新たに加わるポリマーが無くなる真の定常状態まで計算をした。 その結果,反応定数が1を越えると非平衡状態で平衡状態の数十倍の濃度を持つポリマーが選択的に合成されることが明らかになった.また,反応定数が1より小さくても,分解生成ポリマーが合成触媒反応でつくられない触媒分解反応があれば,非平衡状態で平衡状態を上回る濃度のポリマーが選択的に合成された.こうした反応系は初期地球の熱水鉱床のまわりで実現される可能性が高く,外界環境によりモノマー供給率や反応定数が変動する場合について,この数理モデルを拡張することが重要であることがわかった.
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