Research Abstract |
本研究は少数多体系の反応ダイナミックスを統一的に扱える統計理論の構築を最終的な目的とし、本年度は以下の研究を行なった。1)カーボン・ナノチューブの光学的性質:これは昨年度からの継続である。遷移モーメント行列要素計算法を改良し,また誘電率の波数依存項の計算漏れを修正して施光分散及び円二色性の周波数依存性を再計算した。誘電率については,安食・安藤,Lin-Shung,Mintmire-Whiteらによる理論計算と比較し低エネルギー領域で良く合うことを,また整列した多層ナノチューブの誘電率の計算値がde Heerらによるellipsometryの実験結果をよく再現することを見い出した。さらにBommeliらにより観測されたプラズマ振動数との比較を行った。再計算された旋光分散及び円二色性スペクトルは昨年の研究で見い出されたものと同一の定性的特徴を持つ。2)Nose-Hoover-Evans法に関連する写像の性質:臨界点に近い気体などのシミュレーションで有効であると考えられているNose-Hoover-Evans法では着目している量を保存するような‘摩擦力'を含む可逆な散逸的動力学が基礎になっている。本研究ではNose-Hoover-Evans法の特徴を備えた可逆なパイこね変換型写像を用いて数理的側面,特に散逸性と可逆性の両立のメカニズムを調べた。この写像では全体の面積は不変だが,左半分の矩型は拡大され右半分の矩型は縮小される。この系の分布を正時間方向に時間発展させると縦方向にフラクタル的で横方向に一様な分布が得られる。負時間方向の時間発展を考えると縦方向に一様で横方向にフラクタル的な分布が得られる。これから正負の時間発展についてのアトラクターが異なっているためダイナミックスの散逸性と可逆性が両立できることが分かった。
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