Research Abstract |
予備試験の結果から,イネ体内に多量に含まれ,しかも,受光態勢や稲熟病耐性などに関与する珪酸が,傾斜分布をとることが認められた.従って,本年度は,イネの地上部における珪酸蓄積の分布を調査し,さらに,その傾斜分布を調節する要因について検討を行った.供試品種は水稲ササニシキである.ポット試験および水田での圃場試験を行った.ポット試験については,珪酸蓄積を調節する要因を探るため,各部位の切除処理や植物ホルモン処理等を行った.なお,珪酸の測定法は,すべて乾式重量分析法によった.出穂3週後の時期,つまり,穂の先端が垂れ下がる時期に調査した結果,葉身では.基部で最も珪酸含有率が小さく,先端部ほど大きくなる傾向が認められた.これは,既往の報告と一致した.これまでの見解では,珪酸は,根から葉への水の移動とともに,葉に運ばれ,水は葉から外界へと蒸散する結果,葉の先端部により多くの珪酸が蓄積するというものであった.これは,“蒸発皿効果"として知られる説明である.他方,節間や節間をとりまく葉鞘では,その様相が葉身とは異なった.すなわち,葉鞘では,基部で珪酸含有率が最も大きく,先端部ほど小さかった.節間では,ほぼ,葉鞘と同様の傾向を示したが,最基部ではやや小さい値をとった.また,体の各部の切除処理が珪酸の分布に及ぼす影響,さらには,植物ホルモン処理が珪酸の蓄積に及ぼす影響等を検討した.これらを総合して,イネの地上部における珪酸分布を調節する要因について考察を行った.植物ホルモン処理の結果からは珪酸の蓄積パターンに関与する植物ホルモンを特定することは出来なかった.この点については,今後,さらに検討が必要である.しかし,植物体の中の穂が茎葉における珪酸分布を支配する重要な役割を果たしていることが推察された.これらの研究成果は,傾斜機能材料を構築する上で,貴重な示唆を与えるものである.
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