Research Abstract |
平成9年度は,(1)量子井戸構造において,不純物を介して隣の井戸へトンネルする過程の時間分解測定、(2)量子ドットにおいて,音響フォノンを放出して励起状態から基底状態へと緩和する時間の計算,(3)強磁界中におかれた超格子構造において,音響フォノンを放出しながらトンネルする過程の理論的検討を行い以下のような結果を得た. ・不純物をδドープした非対称3重量子井戸構造を作製し,その光学測定を行い,以下のような知見を得た. ○不純物を介したトンネル効果のため,(広い井戸に起因する)高エネルギー側のルミネッサンス強度が減少する. ○作製した試料では,広い井戸に起因するルミネッサンスの減衰時間が,電子が不純物を介してトンネルすることにより,最大80ps程度速くなる. ・単一ヘテロ構造または量子井戸中の2次元電子ガスを放物線形のポテンシャルで閉じ込めた量子ドットにおける,音響フォノン放出による基底状態への緩和時間の計算を行い以下のような結果を得た. ○通常の単一ヘテロ構造上に作製された量子ドットの場合,ヘテロ界面に垂直な方向の波動関数の広がりが大きいため,緩和時間は,ほぼ,励起状態と基底状態とのエネルギー差のみで決まる.このため,逆に,電子数が増えエネルギー間隔が狭くなることにより,(電子数が1個の場合に比べて)速い緩和過程が生じる可能性がある. ○井戸幅が狭い量子井戸上に作製された量子ドットの場合,励起状態から基底状態へ直接遷移する過程より,中間状態を介す緩和が速くなる場合があるが,緩和が速くなるのは,緩和時間が比較的長い過程のみである. ・強磁場下におかれた半導体超格子の電気伝導は,実効的に量子ドット列を流れる電流として促えることができる.そのような系の電気伝導に関して理論的検討を行った結果,次のようなことが分かった. ○音響フォノン反共鳴現象には,井戸間の行列要素のみに起因する成分以外にも,井戸内の重なり積分による形状因子も大きな寄与を示す. ○単一の井戸内に電子がほぼ局在したようにみられる高いバイアス条件のもとでも,系の電流電圧特性に音響フォノンを介して擬弾性的に複数の井戸を飛び越える電流の寄与が大きく現れる. ○擬弾性的に複数の井戸を飛び越える電流は,低温では音響フォノン放出によるものだけであるが,高温では音響フォノン吸収による成分も現れ,それらの温度特性は,反共鳴現象で決まっている.
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