Budget Amount *help |
¥2,000,000 (Direct Cost: ¥2,000,000)
Fiscal Year 1998: ¥700,000 (Direct Cost: ¥700,000)
Fiscal Year 1997: ¥1,300,000 (Direct Cost: ¥1,300,000)
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Research Abstract |
トバ・バタック族の複葬慣行は,ひとたび土葬したあとの遺骨を掘り出し,盛大な改葬儀礼のなかで改葬墓に再安置するものである。これは元来土着宗教の霊魂観に基づいたものであり,祖霊の地位昇格およびその結果としての祖霊からの祝福・加護の強化を意図した儀礼であった。また儀礼主催者にとっては,社会秩序の再生産・創成と深く関わるものだった。しかし19世紀後半のキリスト教布教後も複葬慣行は途絶せず,近年になって再び,壮麗な改葬墓建立を伴う改葬儀礼が隆盛している。 本研究では,北スマトラのトバ・バタック村落における改葬墓の被改葬者に関する資料を系譜関係との対応に注目して分析する作業を通じて,改葬墓建立・分節のダイナミズムを描き出し,そのメカニズムを解明することを目的とした.その結果以下の三点が明らかになった。 第一は,ひとつの改葬墓における被改葬者たちは父系親族原理で結びついた者たちであるという点である。すなわち,ある男性とその男系子孫,およびそれぞれの妻たちが被改葬者となることが原則となっている。被改葬者の世代深度は一世代から数世代の幅がある。改葬墓の被改葬者の関係には父系親族原理が作用しているが,女性は婚出先で夫の父系親族集団が作る改葬墓の被改葬者となる。 第二は,改葬儀礼の主催者集団は恒常的に機能する集団とは限らず,主催者集団には重層性が認められる点である。つまり,結婚式や葬式のような通常の儀礼で主催者の単位となる父系親族集団が,恒常的な祖先祭祀の単位となるわけではなく,主催者集団のなかで中心的位置を占める成員の社会的地位や経済力に応じて,被改葬者の世代深度が決められる傾向がある。すなわち,改葬儀礼は社会経済的成功を顕示する場として機能している。第三のポイントは,父系親族集団内部における系譜をめぐる意見の齟齬や,集団成員どうしの対立が改葬墓の分裂に反映される場合がある点である。
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