Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
前年度に引き続き、主として東大東洋文化研究所所蔵の清代政書を調査し、分類整理を行った。なお清代の政書の枠組みを決定したものとして、明代後半に確立した統一的な行政運営が、理解の鍵となることが、別途の研究により明らかになったので、全体の分類基準を、行政運営統一の進行という観点から組み立てることが適当との認識を得た。すなわち、上級機関の下級機関に対する統制が強化されるに従って、統制の規準が細密化し、それらを関係者に周知徹底する必要があった。その必要に応じて、質量ともに急増したのが、本研究で扱うような政書だからである。そこで、明代の政書を、公刊されているもののほか、東大東文研・蓬左文庫などで閲覧・調査し、明から清にかけての政書の系譜枠組みを、取りあえず以下のように設定した。(1)明代中期には、文書作成法を指南した政書が特徴的である。素朴な形式・偏った内容で、おそらく非常に限られた読者を対象としていた。(2)明代後半には、ようやく統一的運用が軌道に乗った律例を正しく理解するため、律の注釈書・条例の編纂物が増加する。個人ないし個別の地方官庁による著作・編纂が特徴である。(3)清初には、中央政府による律例の定期編纂・刊行が始まり、処分則例など一般行政規則の個人による整理編纂が増える。その隙間を補うべく、実務担当者にとっては個人用ファイルの作成が不可欠になる。(4)清代中期までに、主要な中央官庁の行政規則と、地方官庁が受けた行政命令とは、定期編纂・刊行がおこなわれるよう制度が整う。(5)清代中期以降は、行政規則、特に律例の解釈が、細部に亙るまで統一される趨勢となり、刑部律例館の説帖のような純然たる内部史料が、外部に流出して普及、果ては民間で刊行されるに至る。清代の政書は、こうした時系列の流れに沿って整理し、理解することが可能との結論を得た。