Budget Amount *help |
¥1,800,000 (Direct Cost: ¥1,800,000)
Fiscal Year 1998: ¥600,000 (Direct Cost: ¥600,000)
Fiscal Year 1997: ¥1,200,000 (Direct Cost: ¥1,200,000)
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Research Abstract |
加盟国のEC法違反に起因する私人の損害につき,当該加盟国が賠償責任を負うと判示したEC裁判所のFrancovich判決(1991年)は,「立法者」の過失責任,更に立法の「不作為」責任による賠償請求をも国内法が承認することを要求するものであった点で,従来の国内法の枠組みの大きな修正を迫るものであった.1996年春のBras一serie du Pecheur判決以降,EC裁判所の少なからぬ判決例により,EC法上の統一的国家責任成立要件は次第に明らかにされつつある. しかし,大多数のEC加盟国においては,伝統的に立法の作為,況や不作為については一切の国家賠償請求が否定されてきており,国内裁判所は,立法者主権に基づく伝統的国家賠償法理とEC法の優越との二律背反の解決を迫られることになった.そこで,国内裁判所の対応が注目されるが,現時点までのところでは,EC判例を正面から否定し,立法責任を一切否定する結論を実際に採った判決例は無く,少なくとも下級審レヴェルでは,むしろEC法違反事例に関する限りにおいて立法責任の成立を肯定する傾向にある.具体的には,ベルギー,アイルランド,英国の下級審判決の中に,既に立法責任を結論的にも肯定する判断を下すものが現れている. しかし,フランスの行政判例のように,実質的に立法責任が問題となるような事例でも,可能な限り行政責任として再構成することにより,伝統的な立法者主権との衝突を回避しようとする例もあり,未だ正面から立法者の過失責任法理が形成されることになるかは微妙である. また,ドイツ国内判例のように,EC判例の提示した実体的責任成立要件を厳格に解釈適用することにより,いずれにせよ当該事件においては立法責任は成立しないとして,立法責任を全面否定してきた伝統的判例の見直しを回避している事例も見られる. 更に,イタリア破毀院のように,傍論ながら伝統的な国家賠償判例理論を墨守をするかの如き態度を示している国内裁判所もある.いずれにせよ,立法責任に対する加盟国の最上級審の態度は,未確定,或いはむしろ慎重であり,下級審の積極的な承認傾向が追認されるかを,今後も追跡していく必要があると思われる.
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