Research Abstract |
近年,ヒト遺伝病の発症の分子機構の一つとして,トリプレットリピートの伸長という動的突然変異が見いだされた.ハンチントン病などの約10種の神経筋疾患は,(CAG)_n,(CCG)_n,(CTG)_n,(GAA)_nの伸長によって,引き起こされることがわかった.現在,これらの疾患の発症のメカニズムを解明するために,リピートの伸長機構を明らかにすることが,緊急の課題となっでいる.本研究は,真核生物ゲノムにおけるトリプレットリピートのクロマチン構造の特徴とその動態を明らかにして,染色体上でのリピートの伸長機構を解明することを目標としている. 最近,我々は,ポジショニングしたヌクレオソームを有する出芽酵母ミニ染色体をベクターとして、in vivoにおいて特殊なDNA構造がヌクレオソーム形成に及ぼす効果を評価できる実験系を開発した.この系を用いて,昨年度は,筋緊張性ジストロフィーと脆弱X症候群で見られるCTGリピートとCCGリピートを出芽酵母のミニ染色体にクローニングし,そのクロマチン構造を解析するための実験系を確立した.その結果,ヌクレオソームフリー領域に(CTG)_<12>を挿入すると,その領域近傍に新たにヌクレオソームが形成されるが,(CGG)_<12>をヌクレオソームの中央に挿入すると,そのポジショニングは不安定化されることがわかった.今年度は,さまざまな長さの(CTG)_nと(CCG)_n(n=24-80)をクローニングし,それらのクロマチン構造を解析している.これまでの結果では,in vivoにおいて(CTG)_nはヌクレオソーム形成を安定化し,(CCG)_nは不安定化するという効果が,リピートの長さに依存して強くなる傾向が見られた.以上の結果から,トリプレットリピートに依存したクロマチン構造の形成が,疾患遺伝子の転写や染色体の安定性に関与することが考えられる.
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