Research Abstract |
今回,われわれは,放射線照射の生物時計機能,特に同期メカニズムに及ぼす影響を検討した。 1)in vivoの実験系では,新生仔ラットを対象に生物時計中枢である視交叉上核を含む脳に全体的に放射線照射を行ない,離乳後,行動のサーカディアンリズムを行動測定装置により測定した。照射法は,5Gyおよび10Gyの1回照射,または,9Gy/3frの分割照射を用いた。1ヵ月間行動量を測定したところ,いずれのラットにおいても行動リズムは障害されていなかった。また,これらのラットは6時間前進あるいは後退させた明暗サイクルにも同調し,対照群との間には差はみられなかった。しかし,これ以上の照射線量は運動障害が出現するので,in vitroの系で直接,視交叉上核に照射することにした。 2)in vitroの実験系では,視交叉上核ニューロンから放出されるvasopressin(VP),vasoactive intestinal polypeptide(VIP)のサーカディアン・リズムおよびグリア細胞に対する放射線の効果を調べた。生後5日齢のラットの視交叉上核切片を作成し,^<137>Cs-γrayを用いて,5Gy,20Gy,80Gyの照射を行い,4週間培養した。(1)2時間毎に連続48時間,培養液を採取し,その中に含まれる,VP,VIPの放出量を測定した。5Gyでは対照群と差が認められなかった。20Gyでは,VP,VIPの放出リズムは認められない。また,VPの放出量は変化がないが,VIPの放出量は低下した。80Gyでは,VPの放出リズムは認められたが,VIPの放出リズムは消失した。また,VP,VIPの放出量は低下した。(2)培養視交叉上核をグリア細胞のマーカーであるGFAP(glial fibrillary acidic protein)で免疫組織染色したところ,放射線を照射したものは,GFAPの免疫活性がおちた。 これらの結果から,(1)VIPの放出量は低下から,放射線照射によりVIPニューロンが障害をうけていることが考えられ,VIPニューロンはAVPニューロンと比べて,放射線感受性が高いことが示唆された。(2)VIPの放出リズムが消失したことと,GFAPの免疫活性が落ちたことを考え合わせると,グリア細胞がVIPニューロン間の同期に関与していたことが示唆された。
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