Research Abstract |
高等な動物では,大脳皮質の1次視覚野と呼ばれる部分に,見た線の傾きに応じて反応する一群のニューロンがあると言われている.これらのニューロンのそれぞれは,好みの傾きがあり,その傾きの線が与えられたときに強く反応する.これをニューロンの「方位選択性」という.しかも,この方位選択性が遺伝的ではなく,後天的に形成されることが示されている.この方位選択性の獲得の原理には,いまだに決めてとなる説明は得られていない.そこで,その原理を理論計算機科学的アプローチで解明することが,本研究の主な目標である. 平成9年度では,脳の動きを数学的に解析するためのモデル化をまず行ない,Von der Malsburgのモデルを基本にした基本計算モデルを考えた.さらに,その計算モデルの上で,計算機シミュレーションを行ない,方位選択性の出現を確認し,モデルの妥当性を検証した.その上で,なぜ方位選択性が生じるのかについて,確率過程(ランダムウォーク)の解析手法を応用して解析し,ニューロン接続成長過程での競合が重要であることを定性的に示した. 平成10年度は,この定性的な結果をさらに押し進めるため,選択性の発現の過程を様々なモデルの上で解析した.その結果,競合のないモデルでは選択性の発現がおきないこと,一方,競合のあるモデルでは,Von der Malsburg流の競合でなくても,妥当な競合であれば高い確率で選択性の発現が生じることを証明した.さらに,選択性が発現されるまでの時間(更新回数)についても解析し,定量的な結果を得た. この研究を通して,選択性の発現における競合,あるいは,競合の元となる制約の有効性が強く確認できた.その知見の一つの応用として仮説選択への応用を考え,競合に基づく仮説選択の手法の提案し,その手法の基本的性質を示した.(この件に関する詳細は,重点領域研究「発見科学」のA03班の今年度の成果報告を参照.)
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