Research Project
Grant-in-Aid for Exploratory Research
「原田が薬物をなんとか見つけ出した研究者にすぐさま送り付けた」のように曖昧性のある文の処理過程においては、その文の2義性を解消するための再分析を必要とする。前年度に引き続き、このような文を対象として全体の文構造の把握ができない初見時の朗読音声と全体の文構造が事前に知られている場合の朗読音声における韻律の相違について検討した。特に今回は文の構造決定に関与する韻律情報として、最も明瞭で強い影響を持つと考えられる「-ガ格」と「-ヲ格」の後のポーズに着目した分析を行った。この結果、初見における朗読においては漸進的意味理解と構造解析をしながら韻律が付与されること、それらは文頭主語が1語からなるか2語からなるか、などの局所的構造要因も反映したものとなっていることが分かった。この傾向が最終的な文構造解釈に影響を及ぼすことは10年度報告において明らかにしている(潜在的韻律情報)。全体構造が事前に知られている場合には、文構造をより強調するための韻律を生成することが認められた。また、日本語文中にしばしば現われる、連続同一母音を含む文の理解過程に密接に関係する連続同一母音の文節知覚における検討を進めた。別に、文中等の無声子音間に生ずる母音挿入知覚につき検討を進め、母音挿入知覚は語彙知識の利用により起こるのではなく、語彙レベルでの処理の前に既に起きていることも明らかとした。このことは、一つの言語に特有な音韻配列規則は、連続音声の知覚に強い影響を与え、それは単語知覚の前段階の処理であることを意味している。これまでに進めて来た母音挿入知覚に関する日本語話者と仏語話者との比較対象研究の成果をまとめて論文化した。潜在的韻律の文構造解析に果たす役割についても、その一部を成本の章とした(研究発表参照)。
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