Research Abstract |
本研究は、特定領域研究(A) 「南アジアの構造変動とネットワーク」第6班「環インド洋世界のネットワーク」と連携して実施され、移民史年表の作成にも加わった。平成10年度はカナダに重点が置かれたが,11年度はアメリカ合衆国に移して比較分析を行う予定である。 カナダへの移民の歴史は、1962年に従来の白人優先移民政策の人種差別が撤廃されて以後、大きな変貌を遂げた。その最大の特徴は、アジアその他の非ヨーロッパ地域からの移民が急増したことで、南アジア系移民の年平均流入も、1900〜62年の177人から1963〜90年には8,269人に膨張し、その後も増え続けた。その結果、南アジア系人口(国勢調査の「民族的出自」単複回答総数)は、1971年の6万7,925人、81年の20万0,700人、91年の48万8,370人、そして96年の72万3,345人へと増え、出身国・民族も多様化したが、なおインド系(「東インド人」)が圧倒的多数を占める。定住地も、かつてのブリティッシュコロンビア州からオンタリオ州に中心が移り、約60%が集中するようになっている。1960年代以降のカナダの移民政策では、教育・職業・英仏語能力その他を基準とする点数制が採用され、さらに移住後に職業の上昇移動が進行した結果、1980年代半ばの南アジア系人口は高学歴・高所得者の管理職・専門職の割合が相対的に高く、ほぼイギリス系並みとなっている。しかし1970年代末以降点数制適用外の「家族呼び寄せ」と「難民・庇護民」の割合が大半を占め、同時に世代交替が進んでいるので、職業構成の多様化・下降分化の傾向が見られる。多文化主義政策のもとで多種多様の移民団体が活動して、固有文化の保持と同時にカナダ社会への適応・統合の促進に役立っているが、「制度的」人種差別は在続している。出身母国との関係では、インド出身シク教徒、スリランカ出身タミル人は、移民の一因ともなった母国の民族問題に強い関心をもっている。
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