Research Abstract |
当研究の目的は,通常非摂動論的効果と考えられているトンネル効果を,摂動展開の情報を使って理論的に評価する方法の基礎付け,およびその応用である.トンネル効果を解析的に評価する方法としては従来,半古典近似またはinstanton近似といった非摂動論的近似法が使われてきたが,これは自由度が多くなった場合には厳密な正当化は難しく,さらに高次補正をどう系統的に取り入れるか,強結合の領域の取り扱いなどは,未解決の問題といってよい.上記の目的に対して我々が当該年度に行った考察,研究は以下の通りである.1) トンネル効果が摂動級数の振舞に及ぼす影響の考察と摂動展開のボレル総和法の概念から,通常の摂動展開の情報からトンネル確率を評価するまったく新しい系統的な方法を定式化した.2) この方法を量子力学系に応用し,数値計算から得られた正確なトンネル確率を我々の方法が非常によい精度で再現することを確認した.この一致は結合定数の強さの全ての領域で成立している.3) さらにこのアプローチを超繰込み可能な場の理論について拡張した.ここでは現在手に入る摂動級数の次数が低いためにその収束性等については明確な結論を得る事が今のところできていない.4) 高次までの摂動級数が比較的容易に計算可能な特異な場の理論(Gauss型プロパゲーター模型)に我々のアプローチを応用し,ある程度の収束性を観測した.以上の成果は3編程の論文にまとめてある.さらに,5) 統計力学系とユークリッド化された場の理論との対応から,我々の方法を一次相転移を起こす系での準安定状態の問題に拡張した.具体的には,磁場中の低次元のイジングスピン系の分配関数の低温展開の摂動級数から,分配関数の虚部を取り出す研究を行った.この成果に関しては現在論文を作成中である.
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