Research Abstract |
本研究では,我々がシールド型アークイオンプレーティング法を用いて合成に成功した超高硬度の窒化炭素薄膜を,ハードコーティング材料として実用化するための基礎的研究を行うこと,さらに,高い窒素含有率とsp^3結合率とを同時に満足する窒化炭素薄膜の作製プロセスを見いだし,結晶相窒化炭素β-C_3N_4合成への方向性を探ることを目的とした.本年度は,設備備品として申請したトライボスコープを,現有の原子間力顕微鏡(AFM)に取り付ける改造を行い,作製膜の微小硬さと摺動特性を測定するとともに,圧痕や摩耗部分をAFM観察できるようにした.さらに,それらの結果と赤外吸収分光分析およびX線光電子分光分析による膜の結合状態分析結果との相関を調査した. 基板バイアスおよび窒素圧力をさまざまに変化させて窒化炭素成膜を行い,トライボスコープにより微小硬さを評価した.膜厚は150nm一定とした.その結果,基板バイアスを上げるほど,また圧力を高くするほど膜硬さが減少した.作製膜の結合状態分析から,基板バイアスの印加は,膜中のカーボンネットワークをsp^2化させること,また窒素圧力の増加は,窒素含有率を高めるものの,C-Nの3次元構造ではなくピリジン的な結合を作りやすくさせることが示された.これらの結合状態変化が,膜硬さの低下をもたらしたと考えられる.最も硬い窒化炭素膜の作製条件は,バイアスなし,窒素圧力0.01Paであった.このときの微小硬さは約30GPaであり,同装置で実測したサファイア(0001)単結晶(28GPa)よりも高かった.トライボスコープを用いた硬さ試験における圧子の押し込み深さは10nm程度であり,膜厚の1/10を大きく下回った.従って,本研究で作製した窒化炭素膜のように,残留応力による剥離のため薄い膜しか堆積できない場合でも,トライボスコープにより測定した硬さ値は,十分信頼できるといえる.また,1μm×1μmの領域を荷重75nNでスキャンし,その領域をAFM観察する摩耗試験を行ったところ,窒化炭素膜の摩耗深さはサファイア単結晶のそれの約1/5であり,窒化炭素の優れた摺動特性が示された.
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