Research Abstract |
生体高分子の全体振動は,分子のコンフォメーション変化を通して機能発現に係わっている.また,生体高分子の高次構造形成,安定化には水の寄与が不可欠である.本研究の目的は,蛋白質および水和水の動的性質を,低振動数領域のラマン散乱により明らかにすることである. 試料としては,0.5mm角以上の大きさを持つ,リゾチーム正方晶,BPTI六方晶を用い,偏光特性と温度依存性を測定した. 蛋白質のラマンスペクトルは,中心成分としての緩和モードと,200cm^<-1>以下に拡がるブロードバンドで成り立っている.リゾチーム正方晶の偏光ラマン測定により,ブロードバンドは蛋白質分子内の振動であることが分かった.また,リゾチームとBPTIではスペクトルは明らかに異なるので,低振動数領域に現れるモードは,単独の蛋白質分子に由来すると結論された. リゾチームのスペクトルは,基準振動解析で,適当な減衰定数を入れて得られたDensity ofstatesと,定性的には一致する. 一方中心成分は,水分含有量を変えたときの強度変化から,結晶水が関与していると考えられる.湿った状態のリゾチーム結晶とBPTI結晶について,室温で測定した結果,バルクの水より1桁程度長い2つの緩和時間が得られた.低温の熱測定から,リゾチーム結晶には明確に異なった融解温度を持つ数種の"凍結水"が存在することがわかった.さらに低温のラマン測定で,中心成分の緩和時間は,結晶水が凍結する直前にかけて急速に長くなる結果が得られた.中性子非弾性散乱でも同様な緩和モードが観測されることから,中心成分は,結晶水,およびそれと強く相関した蛋白質自身の動きを反映していると思われる.一方ブロードバンドは,温度を変えると相対ピーク強度が変化するので,結晶水の影響を受けやすいモードが存在すると考えられる.
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