Research Abstract |
到達運動において視覚情報がいかにして利用されているかを解明するため心理実験を行なった.その結果,脳内の目標表現が眼球運動によって更新され,それが上肢運動に反映されることを示唆する実験結果が得られた. 被験者は,手先の視覚情報が断たれた状態で,視覚的に提示された目標まで手を伸ばす運動を行なう.ここでは,「眼球運動の有無」と「目標の提示時間」が手先の到達点に与える影響を計測した実験について述べる. 実験条件として,目標を注視するための眼球運動を行なうSaccade条件と,到達運動始点を注視し続けるNo-Saccade条件を設けた.また,それぞれに対し,目標提示時間を100,350,600msの3種類設定した. その結果,No-Saccade条件では,到達点の分布は目標提示時間にかかわらず一定であったが,Sacceade条件では,100msと350/600msの間で平均到達位置に有意な差が見られた.この結果は,眼球運動後に得られた視覚情報が手先の到達点に反映されることを示している.興味深いことに,目標提示時間100msでのNo-Saccade条件とSaccade条件の到達点の間に有意な差が見いだされた.このことは,目標の視覚情報が眼球運動開始前に断たれても,眼球運動を行なうか否かに応じて手先の到達点が変化することを意味している.大胆に解釈すれば,この結果は,眼球運動前に形成された目標の脳内コードが眼球運動に伴って更新され,それを反映する形で運動指令が修正されたと考えることができる.この現象がいかなるメカニズムによってもたらされたかは,今後さらに検討しなければならないが,頭頂連合野におけるリマッピングが到達運動において観察されたと考えることもできよう. 現在,これらの実験結果を説明する計算モデルを構築中である.以上の実験結果は,眼球運動後に得られる視覚情報や眼球運動によって更新された目標コードに基づいて運動指令が修正されることを示しており,モデル構築に際しては,そのような修正を可能にするメカニズムを組み込むが必要がある.今後,計算モデルの構築を通じて,目標表現更新に基づく運動指令修正のメカニズムを明らかにしていきたい.
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