Research Abstract |
生体高分子の情報発現や機能発現を理解するには,静的構造だけでは不十分で,ダイナミックな性質に関する知識も不可欠である。溶液内多次元NMRでは,従来,アミドプロトンが,C-プロトンのように半永久的に留まっているわけではなく,溶媒水のプロトンと交換しているという事実に着目して,その交換速度を測定する方法を開発してきた。この交換速度は,溶媒水のタンパク質内“接近度"を表す指標を提供するばかりでなく,アミドプロトン磁化の正しい振る舞いを把握するために必要不可欠な要素だからである。我々は,^<13>C-,^<15>N-ラベルした生体高分子を用いて,(原理的には)1kHzから0.05Hzの領域のわたる交換速度を,任意のpHで測定可能な方法を研究・開発している。本年度は,以下の原理を確立することに費やされた:アミドプロトン磁化I(t)は,α-プロトン(ターン構造以外では主成分)を含むスピン群の磁化T(t),及び溶媒水磁化W(t)の相互間の自己緩和(p_<ij>),交差緩和(σ_<ij>),及び交換過程(k_<ij>)により相互作用しながらダイナミックに運動している。我々は,まず,k_<rr>=0と仮定してよいが,従来のMEXICO法のように,p_<rr>=一定(1/600ms)σ_<rr>=0とは仮定しない。実験的に準備可能な10種類のフィルターの中で,すべての緩和,交換速度を過不足なく,しかもlkHzから0.05Hzの領域で最高感度で測定できる組み合わせフィルターとして,縦緩和と放射減衰を伴う水磁化と熱平衡状態α-プロトン磁化(RAD_CH+),及び,縦緩和のみを伴う水磁化と反転状態α-プロトン磁化(INV_CH-)の2つを選んだ。これらのI(t)を2つのNMR振動数(ω_1,ω_2)で測定し,シミュレートする必要がある。殆どの場合,未知のスピン群磁化T(t)はα-プロトン磁化と一個の有効スピン磁化で近似できるが,この近似を採用しても,パラメーター数を減らすために,モデルフリー解析の採用を余儀なくされる。目的のk_<rw>は,系内すべての速度が決まった後に求められるが,そのためには,更に2つの実験データないし仮定があれば必要且つ十分である。第一に,立体構造既知と仮定し,アミドプロトンとα-プロトン間の距離を利用する。第二に,アミドプロトンと有効スピン間ベクトルの内部運動はアミドプロトンとα-プロトン間のものと大差ないと仮定してよい。このように,僅かにモデル依存的ではあるが,交換速度と内在するすべてのパラメーターを過不足なく決定出来る新しい方法を開発した。
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