Budget Amount *help |
¥2,400,000 (Direct Cost: ¥2,400,000)
Fiscal Year 1999: ¥1,200,000 (Direct Cost: ¥1,200,000)
Fiscal Year 1998: ¥1,200,000 (Direct Cost: ¥1,200,000)
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Research Abstract |
広い視野に提示された視覚的運動刺激は,それ自体が運動している(対象運動)ように知覚される場合よりも,むしろ静止しているように知覚され,自分自身が運動しているように知覚される(自己運動).このような状態を「視覚性の自己誘導運動知覚」という.網膜にうつった映像において,ある運動成分が対象運動に起因するのか,自己運動に起因するのかは一意に決定されない曖昧性のある問題である.そこで,本研究では,この現象を用いて対象運動と自己運動がどのように分離・選択されるのかを探求した.これまでは,大領域,周辺視野,そして奥の運動成分は自己運動として知覚され,小領域,中心視野,および手前の運動成分は対象運動として知覚されることが知られていた.前年度には,自己運動を規定するこれらの物理的要因を統制し,自発的注意のみの効果を調べた.その結果,「自発的注意を向けていない運動成分」が自己運動方向を決定することが明らかとなった.本年度は,自己運動を規定する要因としての「奥行き順序」と「自発的注意」の効果の相互作用を調べた.その結果,両眼視差による奥行きの順序がはっきりしている場合には,自発的注意の効果は小さいことが明らかとなった.一方,両眼視差の奥行きの差が無い場合には,自発的注意の効果が見られた.これらのことから,自己運動知覚を規定する物理的特性において,曖昧性が高いか,それが両義的な場合に,自発的注意が特に有効に働くことが示唆された.そして,両眼視差による奥行きの差がある場合の自発的注意の効果は,試行による差および個人差が大きく,注意の付加量の問題があると思われた. 本研究全体を通して,以下のようなモデルが提唱された.まず,自発的注意は,光流動における領域サイズ,偏心度,および奥行き順序のような物理的規定要因により決定される.これは,比較的無意識的なレベルで駆動するシステムである.さらに,自発的注意という内的規定要因が上記の決定機構に文脈に応じた影響を与える.つまり,自発的注意は,比較的長い時間(数秒から数分以上)の時間的前後の文脈を反映し,知覚的分解を行う.なぜなら,脳内認知機構は,それ自身運動しているものには注意を向け,制止した環境には注意を向けないからである.この両機構が相互に補完しあうことによって,実世界の様々な場面において,適応的に自己運動知覚・対象運動知覚が行われているものと考えられる.
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