Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
コモンズという言葉の意味は、最も単純な表現を用いるなら、「みんなのもの」であるということができる。近年、コモンズが注目されるようになった理由のひとつは、ある場所や自然が積極的な意味で「みんなのもの」であることによって、個人の自由で無方向な利益追求が何らかのかたちで制限されているという事実があるからである。日本の農山村における地域資源は、タイトなルールをもったコモンズとして有名である。しかし近代の貨幣経済の浸透や法制度の変化は農山村の暮らしにも大きな影響を与えた。本研究では、和歌山や宮崎の山村、阿蘇の調査にもとづいて、現代社会において森林(地域資源)がどのようなかたちで人とむすびついているのか、だれが責任をもって森林の管理を担って行くことができるのかについて考察を行った。得られた知見は、現在では法制度のうえでは最も自由に振る舞えるはずの在村の山林地主もまた、純粋に利益を追求できる個人ではないということである。彼らの山は、家という縦の時間のなかでの「みんなのもの=家産」であるとともに、生活圏という横の広がりにおいても総有というかたちで「みんなのもの=むらの空間」でもある。すなわち、むらで生活するためには、家のつきあいや他のむら人とのあいだのしがらみというかたちでの縛り(制限)が存在する。重要なのは、コモンズはこのような日常世活のすべてにかかわるような「あたりまえ」の縛りのなかでなりたっているこということである。もうひとつの知見は、阿蘇の草原のように、入会権をもっている地元以外の都市部の住民たちが働きかけることによって「みんな」の範囲が実質的に開かれつつあるところも存在するということである。この場合も、地元の村々の判断によってその開かれ方はさまざまである。そしてそれによって、地域資源の植生も管理形態も異なる。さまざまな社会関係の中心にいる存村の人びとがどのように自分の土地や生き方を開いていくかということ、そして彼らもふくめた「みんな」の範囲をいかに設定されていくが、現在のコモンズのあり方を方向づけていくための具体的な力を生み出していくのだろう。
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