Research Project
Grant-in-Aid for Encouragement of Young Scientists (A)
配向性の整った有機エピタキシーが生じるためには、界面における格子整合が必須である。van der Merweらの理論などによれば、基板結晶とその上に成長する結晶との格子定数の差がある臨界値(臨界ミスフィット)までに収まっていれば完全に整合した界面が生じ、またたとえこの臨界値を越えても、格子軸に平行なミスフィット転位を導入することによって配向性を保ちうるとされてきた。しかし、ここで検討されたモデルは、基板とその上に成長する結晶の格子定数が比較的近い場合を取り扱っており、有機エピタキシーの場合のように、互いの格子定数・対称性が大きく異なりうる場合には必ずしも適当なモデルではない。そこで、モンテカルロシミュレーションを用いて互いの格子定数が大きく異なる場合の配向の変化を検討したところ、期待される配向方向によって配向性の乱れの程度に差があることが明らかとなった。すなわち、期待される界面構造が1×1や2×2構造ならば臨界ミスフィットを越えていても配向に変化は生じないが、√<5>×√<5>や√<8>×√<8>構造などの場合には臨界ミスフィットを越えると配向に乱れが生じ、不完全配向界面が生じることが明らかになった。これを実験的に明らかにするために、基板によって異なる配向性を示すテトラフェニルポルフィリンの系について、電子顕微鏡により配向の乱れを調べたが、期待された差異は見いだされなかった。これは、分子構造の複雑さのため、基板-分子間のポテンシャルエネルギーの位置・方位依存性が基板ごとに大きく異なるためであることが分子間相互作用計算から明らかとなった。一方、縮合多環芳香族炭化水素どおしのエピタキシーの場合においては、系によって配向の乱れが著しく異なっていることが見いだされた。