Research Abstract |
本研究では,観測散乱波から物体を推定する問題に対し,未知パラメータを作用素に変換し,その作用素方程式に基づいた新規な解法の提案を目指している.平成10年度に,T作用素方程式をブラとケットのベクトルで挟み,物体関数の直交関数展開表現を用いて,行列方程式を導出し,それを解けば,非反復的に,物体が推定できることを示した.本年度の実績を以下にまとめる. 1.既出の行列方程式の解法について検討した.行列方程式の行列は,一般に非正方行列であるので一般逆行列を用いる必要があるが,さらに,悪条件のため,混入する誤差により,精度の高い解が得られない.そこで,一般逆行列を求める際に,打切り特異値分解とチホノフ正則化の手法を適用した.なお,チホノフ正則化での正則化パラメータを設定する方法として,GCV法,Lカーブ法を検討した.ある単層無損失誘電体に対する数値計算の結果,チホノフ正則化は,打切り特異値分解に比べ,高精度の像を与えた.正則化パラメータの設定法は,雑音が小さい場合,GCV法が有効であり,雑音が大きい場合は,当然,高精度は望めないが,Lカーブ法が有効であった.適用限度については,大差はない(半径1波長で,屈折率1.1程度まで) 2.T作用素方程式を別のあるブラとケットのベクトルで挟むと,得られる行列方程式の行列の要素が,観測散乱波から決定可能な部分と不可能な部分に分離できることを発見した.そこで,決定可能な部分は観測散乱波から求め,不可能な部分を反復的に推定しながら,物体を再構成する反復アルゴリズムを導出した.単層無損失誘電体に対する数値計算では,半径1波長で,屈折率1.2程度の円柱が再構成できたので,非反復解法に比べて適用範囲は広くなったといえる.但し,反復に時間を要する.
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