Research Abstract |
脳はさまざまな機能を持ったモジュールの集合体であり,それらの相互作用により複雑な情報処理機能を実現しているものと考えられている.そのため脳の機能を理解するには,機能モジュール単体の特性を明らかにするだけでなく,モジュール間の相互作用の性質を調べる必要がある.本研究では,脳の1モジュールとして,海馬スライス標本におけるCA3領域の神経細胞集団と(以下CA3)と,人工のモジュールとしてリミットサイクルモデルであるRadial Isochron Clock(以下RIC)を相互結合し,結合系全体のダイナミクスについて調べた.RICはパーソナルコンピュータにより模擬した.モジュール間の相互作用の形態と,そこで顕在化するダイナミクスの関係を調べることは脳機能メカニズムを解明するうえで重要であると考えられる. CA3とRICの相互結合の性質を変えることにより,相互引込みなどの複雑なダイナミクスが生じることが明らかにされた.このダイナミクスのメカニズムを調べるために,CA3を非線形振動子として考え,刺激と応答潜時の関係に基づいて位相反応特性をモデル化した.このCA3の位相反応曲線と,既知であるRICの位相反応曲線を組み合わせることにより,CA3-RIC結合系ダイナミクスを理論的に再構成し,実験データと比較検討した.その結果,再構成されたダイナミクスはおおむね実験データに一致していたが,一致していない部分も存在した.特に,相互引込みが生じているときに,理論と実験データの一致が良くなることが示された.以上のことから,海馬CA3神経回路網のダイナミクスは位相反応特性の枠組みではとらえられない多様なダイナミクスを含んでいることが示された.
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